第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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【弥生、自分の声は届いてる?】 脳内に響く大好きなジャッキーさんの声。 弥生と呼んでくれる低音が、脳から血管から細胞の隅々まで沁みるように感じたという。 「よく聞こえるよ。アタシの声は? ……そう、良かった」 こんなやり取りを、北は北海道、南は沖縄まで。 さすがに47都道府県すべてを回る事は出来なかったが、いくつかピックアップして青森、新潟、長野、大阪、鳥取、広島、島根、大分、鹿児島、沖縄とすべて日帰りで、依代ジャッキーフィギュアを持った弥生さんが回った。 術の性質上、ジャッキーさんはいつも自宅にいる事になるのだが、それを何度も謝って、 「弥生ばかりに負担をかけてごめんな。金は出すからホテルに泊まってきてくれよ。毎回日帰りじゃ身体が持たないぞ」 と言ってくれたそうなのだが「三か月しかないのに時間が勿体ないだろ!」と日帰りを強行していた。 「本当は疲れてクタクタで泊まりたかったけど、どうしてもジャッキーの顔が見たかったんだ。数か月無視されてたから余計かな。それにさ、まるで同棲してるみたいで嬉しくて早く帰りたかったの。ジャッキーの妹さんが結婚して、ご両親と埼玉に越していったから、実家の一軒家に一人暮らしだろ? 遅くなっても気兼ねがないから、訓練中はジャッキーの家にずっといたんだ」 嬉しそうに話す弥生さんだったが、それってマズイんじゃ……と気を揉んだ。 いくらジャッキーさんが弥生さんを妹にしか見ていないとはいえ、弥生さんの気持ちをもう知ってしまっている、それに男女が同じ屋根の下というのは……僕はそれをおずおずと聞いてみると、 「訓練中ジャッキーの家に住みたいって言った時、すごい勢いでダメだって言われたよ。だけどね食い下がって説得した。この三カ月で術を成功させなければ仕事を辞める事になるんだよって、現場にも事務所にも行かないアタシ達に給料を払ってくれる先代の心遣い、ジャッキーに辞めてほしくないって思ってるみんなの気持ち、今はそれに応える事だけを考えるべきだって。三か月しかないのに1分1秒無駄には出来ない。アタシがジャッキーの家に通う時間が勿体ないし負担にもなる。だから割り切ってよ、アタシを道具だと思ってよ、道具を家に置くのは普通でしょ? って詰め寄った」 弥生さん……自分を道具と言ってまで説得したんだ。 一緒にいたいのもあっただろうけど、三か月で仕上げたい気持ちが強かったんだろうな、純粋にジャッキーさんを辞めさせたくなかったんだろう。 「それで渋々OKしてくれたの。1階にアタシの部屋を造ってくれて、ジャッキーの部屋がある2階には絶対に上がらないようにって念を押された。もし約束を破ったらその時点で霊媒師を辞めるとまで言われた。そこまで警戒するかぁ? 乙女かよって呆れたわ。アタシは部屋どころか同じベッドでも良かったのに。その頃はまだジャッキーが既婚者だって知らなかったから、妹とは一線引きたいんだなくらいにしか思ってなかったんだ」 肩をすくめて「アタシってバカだろ?」と笑う弥生さんだったが、バカなんかじゃないですよ、絶対に。
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