第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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丸々一カ月をかけ、距離があってもリンク切れもなく、視覚聴覚問題無し、そして依代フィギュアを分身として動かせる事に確信を持つと、二カ月目は戦闘訓練に入った。 依代ジャッキーフィギュアを自由に動かせるだけではダメなのだ。 それは基本中の基本動作。 生身の霊媒師がこなす仕事には、依頼者応対、霊を探して見つけ出し、話し、説得し、納得させて黄泉の国へと送り出す。 多少順番が前後しても、大体はこの流れだ。 ただしこれは対象の霊が悪霊でない場合に限る。 悪霊ではどうか。 大袈裟ではなく、まず100%攻撃される。 ガチの喧嘩どころではない、ガチの殺し合いになる。 依代フィギュアを遠隔操作で現場にやって、術者のかわりに戦わせる。 このやり方の利点は、術者の絶対的な安全保障だ。 利点を利点のまま完結させるには、悪霊を捻じ伏せるしかない。 悪霊と戦って負けてしまえば、遠隔操作のリンクは切れ、現場にはただの抜け殻フィギュアが転がるだけとなる。 当然、依頼は遂行出来なくなり、依頼者へのお詫びと日を改める(または霊媒師を変える)交渉をしなければならない。 そういった事が発生すれば、依頼者は不信感を募らせて信用が堕ちる。 それは“霊媒師ジャッキー”という、一霊媒師の信用ではなく、”株式会社おくりび”としての信用だ。 これはもう負ける訳にはいかないだろう。 「ジャッキー、本気でいくからな」 髪を一つにまとめた弥生さんが、動きやすいようジャージ上下で深夜の公園に立つ。 弥生さんを悪霊と見立て、遠隔で操作する依代ジャッキーフィギュアとガチの戦闘訓練を始めるのだ。 ちなみに僕が「戦闘前にお腹に少年ジャ〇プは入れたんですか?」と冗談で聞いたら「腹に雑誌を入れるのは、アタシらより少し上の世代だよ」とマジレスされた。 手を高く突き上げた弥生さんは口の中で言霊を唱えた。 握られた拳の指の隙間から、紫色の強い光がスター状に溢れだす。 溢れた光はすぐに互いを絡めるように蠢いて、僅かな時間を消費した後、鈍く光る一本の刀へと姿を変えた。 初めてジャッキーさんと出会った廃ビルで、悪霊4体を一気に滅した霊刀だ。 対悪霊戦で弥生さんが好んで使う武器だというだが、なぜ刀かというと元剣道部……ではなく、元ヤン時代に主に木刀で喧嘩してたからだそうだ。 そうね、使い慣れた道具が一番ですよ。 戦いの難易度によってトンファーやトマホークに変えるそうだが、基本物騒な物ばかりだった。 「得意なのは接近戦、身体が小さいからな。腕の長さも足りないし、グダグダ考えるより突っ込んでいった方が早いんだ」 戦いは【霊術 対 霊術】(別名・元スタントマン 対 元ヤン)。 依代ジャッキーフィギュアは基本物質なので、霊体に干渉は出来ない。 霊体に有効なのは、弥生さんの霊刀や、水渦(みうず)さんの霊矢のような電気で構築された武器になる。 弥生さんを悪霊に見立てるからには、霊刀に対抗出来る霊武器が必要だ。 ジャッキーさんはどんな武器を選ぶのだろう。
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