第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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霊刀を構える弥生さんに対し、ジャッキーさんはシンプルな六尺棒を構えたそうだ。 普段ジャッキーさんが好む武器はヌンチャクだが、全長40cmの依代ジャッキーフィギュアの手に合う物では小さすぎて、いくら相手が霊体とはいえ武器にならないという判断だ。 ちなみに物質である依代フィギュアは、電気の集合体の霊武器を手にする事ができない。 掴もうとしてもすり抜けてしまうからだ。 そこで一手間。 フィギュアの手の部位を霊力(ちから)の膜で覆ってやれば、霊武器を掴む事も振り回す事も可能になる。 戦闘が武器メインであれば手だけで充分。 むしろフィギュアへの霊的攻撃が無効になり都合が良い。 もしフィギュアを使った体術による攻撃に転じるならフィギュア(からだ)全体を膜で覆う。 これは社長のソウルアーマーと同じ要領だ。 一尺、約30cm。 六尺ならその6倍の約180cm。 電気で構築された六尺棒はフィギュアに合わせて縮小させたものではなく、原寸で出現させている。 実際に使われる六尺棒と同じスケールだ。 全長40cmの身体でも、単に長いだけの棒なら持つ事が出来る。 現世での六尺棒は柳の木を原材料にしているのが多い。 何故なら強靭かつ、よくしなるからだ。 その特性を再現しつつ、電気で構築された六尺棒は重量をほとんど感じさせず、フィギュアの身体でも手に持ち振り回す事ができる。 身体が小さすぎて接近戦しか選択肢がないフィギュアには、180cmの間合いが取れる霊棒はもってこいの武器となる。 「なんだか弥生が巨大に見えるな」 ジャッキーさんの低い声が弥生さんの頭の中に響く、本体はすぐ前のささくれたベンチに座り目を閉じている。 視覚の7割を依代ジャッキーフィギュアに飛ばし、聴覚も同様だ。 残り3割は本体用に残しているのだが、遠隔地に集中してしまうと、本体の周りで起きている事が分からなくなるらしい。 それはそれで、万が一本体周りで何かが起きた時に気が付くのが遅くなるため、おいおい訓練が必要となる(って、その訓練の結果、今はコーヒー飲みながら操作しちゃうんだけどね)。 「下から視上げてるから余計じゃないか? 悪いな、ジャッキー。アタシは着る服を間違えた。スカート履いてTバックをつけてくるべきだった。その方がやる気が出るだろ?」 「妹のTバックはいただけない。興奮より冷えないか心配になる」 「言ったな? 家帰っても見せてやらないからなッ!」 地を蹴った弥生さんは一気に間合いを詰めた。 同時、両手で握った霊刀を満天の星空に振り上げる。 右に捻った細い腰が正面に戻る動きにリンクして、鈍く光る霊刀が、斜めのたすきに振り下ろされた。 刃先がフィギュアの鼻先を掠め地面に刺さり、半瞬、弥生さんの動きが止まった。 「いいさ! 妹モノは自分のジャンル外だッ!」 すんでの所で霊刀をかわした依代フィギュアは、本体価格税込み5万円(ご、ごまんえん!?)の高級かつ柔軟な関節の成せる技、膝を深く折り込んで、戻す力で後方に大きく飛んだ。 そしてリバース。 着地の力を利用して、六尺棒を真っ直ぐに構えた姿勢で前方へと飛んだ。 180cmの先細りの先端は、体勢を整えた弥生さんの霊刀を捉えた。 ギンッ! 高音の濁音が響く。 蒼い火花が飛んで交わり、これが二人の一合目だった。
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