第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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「あーあー、分かったよ。今日はアタシの負け。明日はもう引っかからないからな、……あ、」 気が抜けたのか腰から崩れた弥生さんはその場に倒れ込んだ。 「弥生!」 ささくれたベンチから本体のジャッキーさんが駆け寄った。 リンクが切れた依代フィギュアが、弥生さんの隣にへたり込む。 動けない霊刀使いを覗き込む顔は、今にも泣きそうに歪んでいた。 また「自分のせいで……」とか思ってるんだろう? 弥生さんはわざと強がってこう言ったそうだ。 「あはは、カッコ悪。年かな、気が抜けたら疲れがどっと出た」 弥生さんを抱き起したジャッキーさんは、 「弥生が年なら自分はどうなるんだ。まだ32だろ? 若いよ」 と笑い、傍に転がるジャッキーフィギュアを掴むと同時に弥生さんを抱え上げ、大きな背中に担ぎなおした。 「ちょっ! やめてよ! おんぶなんかしなくていいよ! 少し休めば歩けるから!」 目線が高くなる。 180cmの長身から見る景色はいつもとまるで違って見えた。 温かい背中の感触に胸が高鳴り泣きそうになった。 「いいから、明日も付き合ってもらうんだ。このくらいさせてくれ。そんな事より早く帰って風呂に入ったらビールを飲もう。弥生、疲れただろう? いつもありがとな」 そのまま徒歩で15分。 弥生さんは、たわいない話をしながら流れる幸せな時間に酔いしれた。 「……ううん、疲れてないよ、アタシこそありがと。なぁ、ジャッキー、今夜は一緒に風呂入るか!」 「バカなの? 入りませんよ」 「えー、頭洗ってくれよー」 「自分で洗え」 「ケチ」 「なんとでも言え」 「だってさー、手のひらが痛いんだよー」 「さっきの打ち合いでか?」 「そうそう」 「ごめんな、家着いたら見てやるからな」 「……うん、ありがと」 「あ、だから頭洗ってくれって言ったのか」 「そう! 頭も身体も全部洗ってくれ!」 「だからバカだろ、なぁ、弥生はバカだろ」 「いいじゃんか!」 「仕方ない、頭だけな。そのかわり二人とも服着て入るぞ」 「オマエもバカだろ、風呂は全裸に決まってるわ!」 「ばっ! 全裸を大声で言うな!」 「全裸ーっ! 全裸ぜんらゼンラーっ!」 「だからっ! 静かにっ! 今深夜っ!」 「えへへ」 「……ぷっ!」 「……」 弥生さんが手のひらを痛めたのは本当の事で、次の日起きると皮が剥けて水膨れになっていたそうだ。 それでも戦闘訓練は1日も休まなかったという。
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