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「あーあー、分かったよ。今日はアタシの負け。明日はもう引っかからないからな、……あ、」
気が抜けたのか腰から崩れた弥生さんはその場に倒れ込んだ。
「弥生!」
ささくれたベンチから本体のジャッキーさんが駆け寄った。
リンクが切れた依代フィギュアが、弥生さんの隣にへたり込む。
動けない霊刀使いを覗き込む顔は、今にも泣きそうに歪んでいた。
また「自分のせいで……」とか思ってるんだろう? 弥生さんはわざと強がってこう言ったそうだ。
「あはは、カッコ悪。年かな、気が抜けたら疲れがどっと出た」
弥生さんを抱き起したジャッキーさんは、
「弥生が年なら自分はどうなるんだ。まだ32だろ? 若いよ」
と笑い、傍に転がるジャッキーフィギュアを掴むと同時に弥生さんを抱え上げ、大きな背中に担ぎなおした。
「ちょっ! やめてよ! おんぶなんかしなくていいよ! 少し休めば歩けるから!」
目線が高くなる。
180cmの長身から見る景色はいつもとまるで違って見えた。
温かい背中の感触に胸が高鳴り泣きそうになった。
「いいから、明日も付き合ってもらうんだ。このくらいさせてくれ。そんな事より早く帰って風呂に入ったらビールを飲もう。弥生、疲れただろう? いつもありがとな」
そのまま徒歩で15分。
弥生さんは、たわいない話をしながら流れる幸せな時間に酔いしれた。
「……ううん、疲れてないよ、アタシこそありがと。なぁ、ジャッキー、今夜は一緒に風呂入るか!」
「バカなの? 入りませんよ」
「えー、頭洗ってくれよー」
「自分で洗え」
「ケチ」
「なんとでも言え」
「だってさー、手のひらが痛いんだよー」
「さっきの打ち合いでか?」
「そうそう」
「ごめんな、家着いたら見てやるからな」
「……うん、ありがと」
「あ、だから頭洗ってくれって言ったのか」
「そう! 頭も身体も全部洗ってくれ!」
「だからバカだろ、なぁ、弥生はバカだろ」
「いいじゃんか!」
「仕方ない、頭だけな。そのかわり二人とも服着て入るぞ」
「オマエもバカだろ、風呂は全裸に決まってるわ!」
「ばっ! 全裸を大声で言うな!」
「全裸ーっ! 全裸ぜんらゼンラーっ!」
「だからっ! 静かにっ! 今深夜っ!」
「えへへ」
「……ぷっ!」
「……」
弥生さんが手のひらを痛めたのは本当の事で、次の日起きると皮が剥けて水膨れになっていたそうだ。
それでも戦闘訓練は1日も休まなかったという。
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