第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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それからの一カ月間。 人のいない深夜の公園で、毎日戦闘訓練を繰り返したそうだ。 雨の日も風の日も、天候が変わればそれも訓練になる。 依頼され、訪問した日が毎回天候に恵まれるとは限らないのだ。 悪天候が与える戦闘への影響が体感できる。 この間、ジャッキーさんは自宅からの遠隔操作をかたくなに拒んだそうだ。 一日目同様、一緒に公園に来て近くに座り、近距離からの操作に徹した。 「ジャッキーなら大丈夫だとは思うけどさ、一応自宅から遠隔操作してみたら?」 と提案した弥生さんに、ジャッキーさんは決して首を縦に振らなかった。 若い女性とフィギュアの戦い、こんなのが誰かに見られたら大騒ぎになる。 ゆえに公園と言っても、市の外れにある昼間でもほとんど利用者のない寂れた場所を選んだ。 塗装の剥げた遊具は手入れをされなくなって数年たつような、広さだけが取り柄の、いつ取り壊しをされてもおかしくない公園だ。 夜も遅くもなればいっそう人目がなくなる。 近くにコンビニさえないから人が通る事はほとんどない。 だからこそ選んだ場所だが、もしここに若い女性が一人でいるのを見つけた者がいたら。 もし、その者が悪人だったら。 滅多に人が通らない分、助けを呼ぶのは難しい。 「自分を助けてくれる弥生に何かあったら一生後悔するよ」 真剣な顔でそう言うジャッキーさんに弥生さんは、 「大袈裟……ジャッキーは心配症だ」 と答えたが、もしも……訓練の三か月の間に怪我をするなり誰かに襲われたりすれば、ジャッキーさんの性格上責任を取ると言い出しかねない。 弥生さんは、いっそ怪我でもしないかなと思っていたそうなのだが、幸か不幸か(って幸に決まってんでしょ!)、訓練中に大きな怪我をする事はなかったそうだ。
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