第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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「弥生?」 ジャッキーさんに名前を呼ばれ、弥生さんはハッと我に返ったそうだ。 「どうした? 勝利に酔いしれてたのか? それとも体調が悪いのか? ぼーっとしてたぞ?」 心配そうに見上げるジャッキーさんの唇はやっぱり荒れていて、それを見た弥生さんは、 「なぁ、ジャッキー。アタシ、頑張ってるか?」 と聞いた。 「ああ、頑張ってる。弥生にはすごく感謝してるよ。遠隔操作で現場に入るなんて発想、自分には浮かばなかった。社長も誠さんも、そんな術は不可能だって反対したのに、本当の事を言えば自分も最初は自信がなかった。だけど、弥生は違ったよな。自分になら出来るって信じてくれたんだ」 だってずっと見てきたもの。 アンタが霊媒師になる前の防御陣も、霊媒師になった後の現場でも、アタシはアンタの霊力(ちから)をずっと見てきたんだ。 だから信じてもいるけど、アンタなら出来るってすでに(・・・)知っていたんだ。 「弥生が信じてくれたから、頑張ってみようと思えた。アナタがいなければ今頃、霊媒師を辞めていただろうなぁ。それと……なんだか懐かしい感覚だよ」 「懐かしい?」 「ああ、自分は元スタントマンだって言っただろ? あの頃もこうやって毎日ヘトヘトになるまで訓練を積んでいた。両足を失って義足になって、もう二度と、夢中になって訓練する事はないんだろうなって淋しく思ってた。だけど違った、この2カ月楽しくて仕方がないよ。まだあと1カ月も訓練できるのかと思うとワクワクする。ま、トレーナーの弥生は厳しいからな、訓練はスタント時代よりヘビーかもしれないけど」 「そ、そんなに厳しくしてないだろ! ……厳しいか?」 「そりゃあもう! あはは、でもいいんだ。昔から自分を追い込む訓練は得意な方だ。それより……地方回るの大変だっただろ? 戦闘訓練も手をそんなにさせてごめんな、弥生のゴハンはおいしいよ、弥生がいるから頑張れる、一人じゃこんなに頑張れない。弥生は自分にとって大事な人だ。妹が結婚して両親と一緒に引っ越して、一人になっちゃったなと思ってたけど、美人で頼れる新しい妹ができた。すごく嬉しいよ」 「…………新しい妹、」 「術が完璧になったら、自分は在宅勤務になる。いつか依代フィギュアと弥生のツーマンセルなんて事もあるのかもな。楽しみだ」 「……ん、そだね」 「どうした? なんか変だ。やっぱり体調が悪いんじゃないのか?」 ジャッキーさんは寝ながら手を伸ばし、弥生さんの額で熱を確かめたそうだ。 それがなんともないと分かっても、元気のない新しい妹を心配し、背中に担ぐと深夜の公園を後にしたのだ。
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