第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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残りの一カ月は、ネットで調べた心霊スポットを、二人と一体でひたすら回り続けたそうだ。 それぞれの場所の地縛霊、浮遊霊、悪霊、善霊、動物霊。 出会えば成仏の意思を確認し、素直に成仏を望めば、光る道を呼んで黄泉の国へと送る。 拒否して攻撃してくる悪霊は、その場で戦闘が始まる。 そんな事を週に7日、要するに休み無しのハードなスケジュールだ。 光る道を呼ぶのは、会社の中でも弥生さんが一番上手だ。 埼玉の廃病院でも三車線道路のような巨大な道を呼んでいた。 弥生さんに光る道の呼び方を聞くと、 「よくわかんないんだけどさ、とにかくデカイ声で気持ちを込めて呼ぶんだよ。テキトウじゃ駄目。コッチにはこんな霊がいて、こんな理由で現世にとどまってたけど、黄泉の国へ逝く決心がやっとついたんだ、だからお願い、迎えにきてーってさ。まぁ、要は言霊だよ」 呼びかけて返事とかあるんですか? と聞くと、 「返事はないなー。でもね、デカイ声を出してると、途中から身体がふわぁって温かくなってくるんだ。それが黄泉の国(むこう)にアタシの声が届いた合図みたいな感じかな。それで少し待つと道が来るんだ」 ふぅん……それって、僕も呼んだら来てくれるのかな。 遭遇するのが悪霊ばかりで、まるで戦闘訓練のOJTになってしまう事が多かったけど、野良幽霊達を相手にし続けてあっという間に一カ月。 最終日3日前、ようやく善霊に出会い、黄泉の国へ送る事になった。 思えばツーマンセルのNGを食らう前から、当たるのは悪霊ばかりで、二人でいる時に光る道を呼ぶのは初めての事だった。 「ジャッキーは光る道を呼んだ事はないよな。あ、でも、一回死にかけたって言ってたけど、その時光る道を視たか?」 「ああ、視たよ」 「そうか、じゃあ、これから視ても驚かないから大丈夫だな。呼び方は……なんて説明したらいいんだろう? ジャッキーにも必要なスキルだし、せっかくだからこの機会に習得してもらいたいんだが。うーん、なんて言えば伝わるかな、」 弥生さんが説明に四苦八苦していると、ジャッキーさんが申し訳なさそうな顔でこう言ったそうだ。 「ごめん、弥生。せっかく自分の為に悩んでくれてるのに。あのね、自分、光る道を呼べるんだ」 「えっ!! なんで? だって、アタシと現場に行ってた頃は……あ、そうか、二人で行かなくなった後に覚えたの? 誠か社長に教わったの?」 弥生さんの頭の中にはたくさんのハテナマークが浮かび、ただただジャッキーさんの説明を待つしかなかったのだ。
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