第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

35/222
前へ
/2550ページ
次へ
「あぁ……うん。話すと複雑で、説明するのが面倒で、会社にも家族にも話してないんだが……弥生にならいいか」 勿体付けないでよ、早く教えてよ。 ああ、でも教えないで、言わないで、だって、もしかしたら。 アタシの内心なんて知りもしないジャッキーは、顔を赤くして、この上ない幸せそうな顔をしてこう言ったんだ。 「マジョリカは自分の奥さんだよ。黄泉の国で知り合って、そのまま結婚したんだ。現世で奥さんは死者だって言うと、中々理解してもらえないだろう? でも弥生なら付き合いも長いし霊媒師だし理解してくれるかと思って話した。ごめんな、今まで黙ってて」 「……奥さん……? カノジョじゃなくて……奥さん、なの?」 アタシの声は震えてたんだ。 なのにジャッキーは気づきもしないで、間抜けな幸せ顔でこう続けたの。 「そう、奥さんだ。昔、生死の境を彷徨って黄泉の国に逝った時、滞在時間はまる一日しかなかったけど、知り合ってその日の終わりに結婚した。自分がちゃんと死んでいれば、そのまま奥さんと一緒にいれたんだけど、生き返ってしまってね、現世に戻されちゃったんだ」 「…………じゃあ、別れたの?」 「いや、別れてないよ。自分だっていずれ死ぬんだ。それまで離れてしまうけど、待っててもらっている。新婚早々奥さんには淋しい想いをさせてるよ。でもね、さっき光る道を呼んだみたいに、黄泉の国と音声通信は出来るんだ。それで毎晩お喋りだけはできるから」 ____いつもは1対1ですが、複数を相手にした音声のやり取りもしますので 訓練第一日目、おくりび事務所でジャッキーは、こう言っていた。 ”複数を相手にした音声のやり取り”、これは【光道(こうどう)開通部】の人達、そして”いつもは1対1ですが”、これは……マジョリカの事だったんだ。 アタシが1階で寝ているのに、2階のジャッキーはマジョリカと毎晩お喋りをしてたんだ。 きっとさっきみたいに、はしゃいだ声で、嬉しそうに、幸せそうに、そして愛してるって言ったんだ。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加