第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

36/222
前へ
/2550ページ
次へ
「弥生……どうした……? 目が真っ赤だ、泣いてるのか? どこか痛いのか? それとも、」 ジャッキーはアタシがなんで泣いているのか、ホントに分かってないのかな? 一度は好きだって、アンタのカノジョになりたいって言った女だよ? 泣いてるのはアンタが既婚者だって知ったからだよ、他にあるかよ、 あのさぁ、なんでアタシが告白した時、奥さんいるコト教えてくれなかったの? 好きになってすぐの頃なら、諦められたかもしれないのに、 こんなに好きにさせといて、今さら奥さんがいるって言われても、 死者だから説明が面倒? 知るかよ、そんなのアンタの都合だ、 まったくさ、アタシを好きにならないクセに、どんどん好きにさせるクセに、中途半端に優しくして、アンタなんか本当に、大っ____ もうどうでもいいや。 なんかメンドクサイ。 アタシは基本女王様で、 本来は尽くすタイプじゃないんだよ。 「別に、目が少し痛いだけだ。なぁ、ジャッキー。この訓練もあと3日で終わりだな。これが終わったら出て行くよ」 「ああ、そうか、淋しくなる。弥生には本当に助け……いや、ちょっと待て。さっきから涙がとまらないじゃないか。こすらないで自分に見せて?」 見当違いなジャッキーがアタシの目を覗き込んできた。 息がかかる。 もうどうでもいいや。 ほんとメンドクサイ。 アタシは基本肉食だ。 欲しいモノは自分から取りにいく。 「目は心配だ、仕事にも支障が出る。弥生、明日は訓練を休んで朝一番で病院に行くぞ。自分も一緒だ」 ウルサイな。 痛いのは目じゃないし、分からない? ああ、腹が立つ。 腹が立ってイライラちゃって我慢も限界。 ナニ必死にアタシの心配してんだよ。 そんなコトよりアンタの唇はガサガサだ、 割れて血が滲んでる、 リップつけなよ、 気になっちゃう、 早く、今すぐ、 でないと____ 「とりあえず目を冷やそう。待ってて、アイシングを取ってくる」 ____そんなのいらない、ほしいのは、いつだって、ずっと、もうずっと、ああ、もう知らない、みんなアンタが悪いんだ、どうにでもなればいい、 アタシは上げた手の先、指に届いた短い髪を鷲掴む。 そしてそのまま力任せに引っ張って、荒れた唇にぶつけるようなキスをした。 近すぎる距離の中、アンタと斜めに目が合った。 もうどうでもいいや。 訓練も、マジョリカも、何もかも知ったこっちゃないよ。 荒れた唇からはほんのりビールの味がする。 そりゃそうか、二人とも飲んでいるんだがら。 ジャッキーがなにか言っているけど、 耳の奥がズキズキ痛くて、心臓が破裂しそうで、なんにも聞こえてこないんだ。 やめろとか、ちょっと待てとか、せいぜいそんなところかな? ごめんね知らない、嫌なら自分で振りほどいてよ。 って、無理か。 できる訳ないよね、アンタ優しいもん。 力じゃ男にかなわない。 つまみがわりに、さっきアタシが用意した。 剥いた果物に添えた小さなフォーク。 それをアタシは左手に、自分の首に当てている。 勘のいいジャッキーは気が付いたんでしょ? キスを拒めば、アタシは首に突き刺すだけ。 優しいジャッキーには脅しになるんじゃないかと思ったの。 案の定、コイツは言いなりされるがまま。 あははは、 なぁんだ、こんなに簡単なコトだったんだ。 今、アタシはジャッキーとキスしてる。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加