第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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そう考たら怖くて不安で、確かめたくて仕方がない。 思った事はみんな口に出しちゃうバカなアタシは唇を離して、直接ジャッキーに聞いたんだ。 「アタシにキスされて気持ち悪いか?」 おかしいなぁ、涙が止まらない。 それになんだか喉も渇くし、手も震える。 「弥生……どうしたんだ、いきなり、」 「いいから答えて、アタシにキスされて気持ち悪い? 嫌だって思ってる? 奥さんに悪いって思ってる?」 フォークを首に食い込まれせば、痛みの分だけ不安が消える。 こうすれば言うコト聞いてくれるんだ、聞いたコトにも答えてくれるんだ、 「弥生……答えるから……だからそんなにしないで……ああ、奥さんには悪いと思ってるよ、浮気はしないと約束したのに」 「本気で言ってる? アタシに脅されてのキスじゃない。ダイジョウブ、セーフだよ」 「セーフって……」 「あと二つ、アタシにキスされて嫌か? 気持ち悪いか?」 「気持ち悪いとは思わないよ。弥生とキスしたくない男なんてきっといない」 「……ジャッキーも?」 「自分は既婚者だ。奥さん以外とキスしたらいけないんだ」 「言ってろ。で、もう一つ……やっぱりこんなの嫌だったか?」 「…………うん、嫌だ」 「…………そうか、だよな、」 「弥生がこんなに泣いてるのが嫌だ。アナタを見てると自分も泣きそうだ」 なに言ってんだ、この男は。 なんでアンタが泣きそうになるんだよ。 「……怒ってないのか?」 「怒ってないよ、驚きはしたけどね。ねぇ弥生、お願いだ。自分にフォークを寄越して? 危ないよ」 なんで怒らないの?  なんで責めないの? 優しい顔で、ゴツゴツの指で、アタシの涙を拭ってくれる。 やめてよ、また好きになっちゃうじゃん。 勘弁してよ。 「…………嫌だよ、渡さない……だって、これがないとキス出来ない……」 アタシがそう言うと、ジャッキーは困った顔で笑った。 そして、びっくりするような事を言った。 「ん……そんなにイヤか。分かった、ならこうしよう。フォークはそのまま持ってていいよ。そのかわり、弥生じゃなくて自分の首に当てればいい。自分はけっこう痛いのに弱いんだ。充分効果はあると思うよ?」 「な、なに言ってんの!? そんなコト出来ない!」 意味が分からない、なんでわざわざ……アンタバカなの? 「どうして? 弥生の首でも自分の首でも、脅しの効果は同じだよ。だったら自分にしてよ。その方がいいんだよ。弥生が怪我するかもと思うと心臓に悪いんだ。ほら、早く」 向かい合った至近距。 ジャッキーの手がゆっくりと、アタシの左手に伸びてくる。 「ヤメテよ! 動かないで!」 「弥生、落ち着いて。取り上げる訳じゃないから、」 ウソだ、ウソだよ、絶対に取り上げる、ああでも違う。 コイツの目にウソが見えない、本気で言ってるんだ。 アンタバカなの? ねぇバカなの? だってフォーク(コレ)をアンタの首に当てたとして、もしもアタシがキレて、アンタの首に突き刺したら下手すりゃ死んじゃうんだよ? 怖くないの? どうしてそんなコト簡単に言えるの? …… ………… ………………ああ、 そうか……分かっちゃったよ、ああ、やだな、気付かなきゃよかった。 コイツは……ジャッキーは、死ぬのが怖くないんだ。 命が終わればマジョリカに逢えるから、マジョリカとずっと一緒にいれるから、だから怖くないんだ。
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