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それに気付いてしまったアタシは、会ったコトもないマジョリカの笑い声が聞こえた気がして、心も感情も空気が抜けて空っぽで、小さなフォーク一本が重くて重くてたまらなくって、床にそのまま落としたんだ。
ジャッキーは一瞬アタシを見たけど、すぐに拾って遠くに投げた。
「大丈夫か?」
ジャッキーの大きな手が涙を拭って、アタシの髪を、頬を、唇を、撫ぜてくれて、そのまま強く抱きしめられた。
長い長い溜息をつきながら、アタシの背中をさすってる。
おかしいな、ずっとこうされたかったはずなのに、アタシの心はスカスカの無のままだった。
「首を見せて、」
ジャッキーは腕をほどくと、ボサボサになった髪を丁寧に後ろにやった。
そして息がかかるくらいに近づいて、アタシの首を指で触りながら隅から隅まで見て……ドキッとした。
空っぽなはずなのに、首にキスしてくれないかなぁなんて、ちょっとだけ思ったんだ。
「はぁぁ……良かった……どこも傷ついてない……」
それだけ言うと、コイツはまたアタシを抱きしめた。
あんなに身勝手でヒドイ事をしたというのに。
アタシにケガがないか心配してくれる。
死ぬ事は怖くないクセに、アタシが傷つくのは怖いのか。
ヘンなの。
時計の針の音だけがリビングに響いてて、ジャッキーの腕に抱かれたままのアタシは、時折心の中で「イチニイサンシイ……」なんて秒針に合わせてカウントを取っていた。
別に意味はないけどね、なんとなく。
それからどのくらい黙ってたんだろ?
沈黙を終わらせたのはアタシのくしゃみだった。
ああ、カッコ悪。
「寒いか?」
ジャッキーの太い腕がアタシの身体を包むように抱きなおし、温めてくれようとしてるのが分かる。
あったかいなぁ。
こんなにくっついたのは初めてで、本当ならもっと嬉しくていいはずなのに、もっと欲情してもいいはずなのに、空になったアタシの心はスッカラカンで、そのくらいじゃあ、どうにもこうにも響かなかった。
返事もしないでぼんやりしてた。
頭の中には関係のないコトばかりが浮かんでは消えていた。
夜は冷えるなぁとか、明日は訓練休みたいなぁとか、あと3日したら一人のアパートに帰るのかぁ、とか。
もうだいぶ遅い時間だな、ジャッキー寝なくていいのかな。
二人ともこのテンションだし明日はホントに休みたい。
アラームかけずに眠ってたいな。
すごく身体がだるいんだ。
「弥生、」
なぁに?
返事をする気はあるんだけど、なんだか疲れて声が出ない。
分かってる、もう寝るんだよね?
気にしないで先に寝て?
アタシのコトは放っておいて。
眠たくないんだ、もう少しぼんやりしてるから。
今後の事を考えたいんだ。
そう答えたいのに、やっぱり声が出なくて、もういいやって思ったの。
このまま返事をしなければ、そのうち諦めてくれるだろうって。
そしたらさ、コイツは一体ナニを考えてるんだろ?
いきなりアタシを抱き上げたと思ったら、
「2階に行くぞ。つかまってろ」
って歩きだしたんだ。
いろいろ言葉が出なかった。
とりあえず、生まれて初めてだよ。
これがお姫様抱っこというものなんだな。
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