第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

40/222
前へ
/2550ページ
次へ
階段がギシギシいっている。 アタシ……重たくないのかな? しばらく体重は測ってないけど、変わってなければ42kgのはずだ。 ああ、でもこの3カ月。 めちゃくちゃ身体動かしてるから筋肉量が増えて、その分重くなってるかもしれない。 恥ずかしいなぁ、でもいっか。 下から見た表情(かお)は辛そうじゃあないし、考えるのがめんどくさい。 階段が終わり、薄暗い廊下を進んで部屋のドアが開けられた。 抱かれたまま中に連れられて、やたら大きなベッドが目に入ると、それまで心は空っぽだったはずなのに、ドキンと心臓が跳ね上がった。 コイツはナニを考えているんだろう? 訓練の効率化を考えて、しばらくこの家に住みたいと言った時、「絶対にダメだ」と頑なだったのに、どうにか説得して一緒に住む事になった時も、「生活スペースを分ける、絶対に自分のいる2階には来るな」と念を押していたのに。 アタシを抱くのかな? 真意が分からず、上を向いて盗み見る。 だけどやっぱり分からない、下から見る顔は今一つ表情が分からない。 それよりも気になるのが……片耳だけにある血色のような赤いピアス。 前からつけてるのは知っていたけど、気にしたコトはなかった。 男でピアスをしてるヤツなんていっぱいいる、珍しくもない。 なのに今夜はすごく気になる。 抱かれたまま、アタシはそっとソレに手を伸ばす。 血色に届く寸前、指先に針が刺さったような鋭い痛みが走った。 今のは静電気……? いや、違う。 目を閉じれば強い思念を感じる……ピアスは全力でアタシを拒んでる。 これは……マジョリカに関係するモノだ。 マジョリカが怒ってる。 …… …………いいじゃんか。 会ったコトはないけどさ、アンタすごい愛されてるじゃん。 アタシが欲しくて欲しくてたまらないジャッキーを独り占めしてるじゃん。 少しだけ譲ってよ。 ほんの数時間でいいからさ。 それくらいの権利はあると思うんだ。 だってそうだろ? アンタは今どこにいる? 黄泉の国じゃないか。 ジャッキーが仕事で窮地に立って、限られた期間で無茶なスキルを習得しなくちゃならなくて、そりゃコイツなら出来るけど、だけどやっぱり大変で、休みなんて1日も無くて、毎日毎日必死になって努力して。 それを支えたのは現世にいるアタシだよ、黄泉の国のマジョリカじゃない。 アンタはズルイよ、離れていても存在だけでジャッキーを縛るんだ。 アンタがいなければきっとアタシが愛されてた。 たわいない話で笑い合って、キスされて淫らに抱かれて、アイシテルって何度も言われて、楽しい時だけじゃない、苦労があっても一緒に頑張って乗り越えるんだ。 それでさ、結婚してさ、ジャッキーにそっくりな子供をたくさん産んでさ、家族になってさ、二人はお父ちゃんとお母ちゃんになってさ、一緒に年を取ってさ、死ぬ瞬間まで手を繋いで離さないの。 …… ………… ああ、キツイな。 ダメだ。 いろんな事がありすぎて、思い通りにならなくて、心がどうにかなりそうだ。 考え込むにはアタシの頭は悪すぎる。 陰でグダグダ言うのも性に合わない。 いっそのこと、マジョリカに直接喧嘩を売りに逝こうかな____
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加