第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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「降ろすぞ、」 囁くような低音に我に返る。 まるで壊れ物を扱うように、ジャッキーはアタシをベッドの上に寝かせた。 ああ、ココはいいな。 部屋もベッドも、ジャッキーの匂いでいっぱいだ。 すごく心地良くて安心する、それだけで涙が溢れる。 ねぇ、好きだよ、好きなの。 ジャッキーはアタシの上に毛布を掛けて、ベッドの中には入らずに、横に座って髪をずっと撫ぜていてくれた。 「寒くないか?」 毛布がすごく温かくて寒くはなかったけど、アタシは返事が出来なかった。 もしまだ寒いって言ったらどうするの? 隣で一緒に寝てくれる? アタシを抱きしめてくれる? ジャッキーからキスしてくれる? なにも答えないアタシを心配そうに眺めるジャッキーは、小さく「ごめんな」と呟いた。 「…………なにが、ごめんなの?」 アタシがそう聞き返すと少し驚いた顔をして、「昔、同じように聞かれたコトがあったよ」と息を吐いた。 それはマジョリカが言ったの? どうせ聞いても答えてくれないだろうけど、その気になれば霊視(みる)コトも出来るけど、いやだ、知りたくない。 「弥生の気持ちに気が付いてやれなくてごめんな。辛かったな」 髪を撫ぜ、頬を撫ぜ、ジャッキーは泣き出しそうな顔でそう言った。 アタシは溜息をついた。 「前に言ったよ、アタシ。ツーマンセルの現場の車の中でさ、ジャッキーが好きだって、付き合ってほしいって、カノジョになりたいって。忘れちゃったの?」 「忘れてないよ、覚えてる。だけど、あの時自分は付き合えないって言っただろう?」 「うん、言われた、妹みたいな存在だって振られたんだ」 「あれから何年経った? 約2年だ。弥生はとっくに自分のコトなんか好きじゃないと思ってた」 「なにそれ……じゃあなんで今ココにいると思ってるの? なんで3カ月も休み無しで一緒に頑張ってると思ってるの? ただの後輩ならそこまで出来ない。振られてもツーマンセルNG食らっても、それでもアンタのコトが好きで、忘れられなくて、諦められなかったからだよ」 言ってて泣きそうだった。 そこまで言わないと分からないの? ジャッキーは決して人の気持ちに鈍い方じゃない、気遣いのできるヤツだ。 なのに……気付かなかったのは、マジョリカのコトで頭がいっぱいだったからじゃないの? 「そうか……ごめんな。会社の中でも弥生は面倒見がいいだろう? みんなに優しい弥生だから、クビになりそうな自分に親身なのもの、それと同じだと思ってた」 「アタシにとって、他の奴らとアンタじゃぜんぜん違う。フツー分かるだろ、気付けよ、ずっと好きだバカ」 「そうか……」 ジャッキーの指がアタシの頬をすーっと撫ぜる。 指先の体温が熱いくらいで心地が良かった。
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