第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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「だってさ、アタシが欲してるのはアンタだよ。だけどアンタはアタシを拒むじゃないか。欲されても拒むアンタが”欲する事も無駄じゃない”って、どんだけ矛盾してるかワカルか? この二年ずっと無駄にさせてきたクセに。知らなかったわ、アンタって偽善者だ。どんだけ残酷なコト言ってるのかワカルか? それともワザとか? ソレ楽しいか? 偽善じゃないって? なら抱けよ、今すぐアタシを抱いて、マジョリカに言ったみたいに“愛してる”ってアタシにも言えよ、欲する事が無駄じゃないと証明しろよ」 ____2 ホラ早くと、アタシの荒れた感情をぶつけたくて、気持ちの痛みを移したくって、ピアスの耳に痕がつくほど爪を立てた。 マジョリカは相も変わらず全力で拒んでて、アタシの爪は剥がれそうにジンジン痛む。 「偽善者か、そうかもしれないな。だが自分は既婚者で妻がいる。弥生の気持ちに応えたくても応える事はできないんだ、分かってくれ」 しつこく爪を立てるのがウザイのか、軽く顔を背けたジャッキーがアタシの手首を掴む。 「だよねぇ、既婚者サマにはいくら望んでも無駄なんだ。どんなに欲しても叶わなくて、歯を食い縛るほど辛いなら、最初から閉ざした方が賢いだろ? いいかげん傷付くのも飽きたんだ、分かってくださいよ、志村さん(・・・・)」 ____1 掴まれていない反対の手で、同じように耳朶をつねってやると、眉間にシワを寄せたジャッキーは小さく舌を打ち、片手でアタシの両手を封じてしまった。 大きな片手にアタシの両手は掴まれて、もう爪を立てるコトは出来なくなった。 ジャッキーは困ったような顔をして、 「弥生が聞いたんだろう、拗ねてつねるなんてヤメテくれ」 なんて言ったんだ。 ____(ゼロ)、 ああああッ! なんだよそれッ! もうダメだ限界だッ! アンタそういうコト言うんだ! もうやだ! やだやだやだ!  ジャッキーが言ったんだんじゃないか! 不安や不満を言っても良いって! バカみたいな質問だよ、自分でも分かってる! でもさ、同じコト聞いても、爪を立ててもマジョリカなら怒らないんだろう? 喜んで聞いてやるんだろう? 痛みすら受け止めるんだろう? ああ、すごくやだ、今のアタシすごく卑屈だ!! 悲しいのに情けないのに、それがピークを越えてしまうと、なんだか麻痺して笑えてくる。 ゲラゲラゲラゲラ下品な声で、そんなアタシを見て眉間のシワを深くするジャッキーがおかしくてたまらない。 そうか、こういう楽しいキモチだけを残して、後は捨ててしまえばいいんだな。 傷付いたキモチ、悲しかったキモチ、報われないキモチ、そんなのまとめて捨てちゃえ捨てちゃえ。 分かってる、マジョリカにはかないませんよ、元ヤンは元ヤンらしく身の程知れって話だよ。
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