第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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「弥生……どうしたんだよ、おまえおかしいよ。自分で分かってるのか?」 はぁぁ、めんどくさい。 抱くの? 抱かないの? どっちなの? 早く決めてよ、ハッキリしてよ。 それと耳元がうるさいわ。 アタシに乗っかりながら、泣くのか喋るのかどっちかにしてよ。 「なぁ、黙ってないでなんか言ってくれ、おまえはこんな事言う女じゃないだろう? 弥生は優しい子だ。思いやりがあって、料理が上手で、自分を助けてくれて、弥生の笑顔にどれだけ救われたか分からない。それなのに……ああそうだ、自分がみんな悪いんだ。自分がおまえを追い詰めたんだ」 ふぅん……少しは学習したんだ。 そうだよ、アタシはアンタに二年かけて追い詰められた。 好きで好きで、なのに妹だって言われてさ。 だけどさ、妹ならさ、時間をかけて頑張れば彼女になれるかもしれないって、まぁそれはアタシが勝手に密かに思ってただけだけど、でもそう望みを掛けて気持ちを抑えて、なんとか繋いできたんだよ。 それがなに? アンタはアタシの恋心は無くなってると勝手に判断してさ、今更になって妻がいましたとか、そりゃないわ。 いいじゃんか、アタシはアタシに必要のない感情(モノ)を切り離すだけ。 もう疲れちゃったんだよ、誰かを、アンタを、好きだと想う感情に振り回されるのは嫌なんだ、アタシがアタシでなくなるみたいで怖いんだ。 何も答えないアタシに焦れて、溜息を吐きながらシーツに顔を伏せている。 その顔を少しだけ横に向け、アタシの耳元でコイツはこう言ったんだ。 「弥生、おまえもう二度と飲みに行くな。淋しいからって、好きでもない男と付き合うな」 はぁ? アタシを拒むクセに束縛すんのか?  彼氏ヅラか? 慌てるコイツが面白くって、ガン無視キメテやろうと思ってたけど、ムカつくから少し言い返してやる。 「あのさぁ、」 アタシの声に、ガバっと顔を上げたジャッキーが「なんだ!」と良い返事。 「付き合う気もないのに束縛だけはするとか、そういうの良くないよ?」 「おまえがおかしな事を言うから心配してるんだろう!」 なんだよ鼻息荒いよ。 アタシの上のジャッキーはテンパっていて、ツーマンセルの余裕顔とはかけ離れてて、コイツでもこんなマヌケな顔をするんだな、なんて冷静に眺めてた。 「そんなにおかしなコト言ったかぁ? まぁ……少しヘンなテンションだったかもしれないけど、」 「少しじゃないだろっ! 自分は弥生を都合のいい女だと思った事は一度も無い! いなくなるから惜しいとか最後に抱きたいとか、そんな浅ましい感情を持った事も無い! 見損なうな!」 「はぁ、そうですか」 としか言いようがないだろう。 アンタはマジョリカのコトだけ考えてりゃいいんだよ。 訓練はあと三日、それが終わったらサヨナラだ。 在宅勤務に切り替わるアンタと会うのも、この先ほとんどないだろう。 感情を切り捨てて、頑張ってアンタを忘れるんだ、嫌いになるんだ、そしてもう二度と誰かを好きにならないように、気を付けて生きるんだ。 だからもう____ 「こっちを見ろ! 真面目に聞け! そんなに淋しいならこのまま(うち)に住めばいいだろ! そんなに飲みたいなら自分と二人で飲めばいいだろ! 他の誰かと適当に付き合おうとするな!」 ____ああ、腹が立つ。 なんでコイツはこうなんだ。 アタシが諦めようとするといつもこうだ。 気持ちが、引き戻される。
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