第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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「ごめんな、矛盾した酷い事を言ってるのは十分承知だよ。だけど自棄になった弥生が傷付いて泣くのを見たくないんだ。だったら自分の手で傷付けた方がよっぽどマシだ」 両手を頭の下にやり、まっすぐ天井を見たままのジャッキーが言った。 ”自分の手で傷付けたほうがマシ” か……だったら傷付けてよ。 深くて切なくて声が出てしまうくらいに。 付けた傷が治らなくて、それでも何度も何度も傷付けてよ。 「もう無理して気持ちを隠さなくていい、何度も好きだと言えばいいよ。不安と不満に耐えられなくなったら自分にあたれ、自分になら何をしたって構わないから。ただ弥生自身を傷付けるのは止めてくれ」 フォークのコト言ってるんだ。 悲しそうな横顔を見ていたら、すごく申し訳ない気持ちになった。 「あ……ごめん。あんなコトはもうしないよ」 アタシが素直にあやまると、「絶対な」と言って笑う。 もうしない、本当だよ、絶対にしないからね。 「飲みに行っても構わない。付き合いもあるだろうからなるべく束縛はしない。そのかわり前にやったウサギを必ず持っていけ。遠隔で監視する」 「監視!? 怖っ! ジャッキー怖いよ! 引くわ! アタシが引くわ!」 「そうそう、飲みに行ってもいいが無茶な飲み方はいただけない。終電前には帰ってこい」 「始発じゃなくて? いや……さすがに不可能だよ。下手すりゃ終電で出掛けるってのに。んだよ、結構厳しいな」 ”一生好きでいろ”って言われて、勝手だなと思う反面嬉しかったのに。 いろいろ厳しくてちょっとグッタリ……と思っていたら、ジャッキーは頭の下の手をほどくと、身体を横に向けてアタシを見た。 その顔は優しくて真剣だった。 「それから……今から言う事は真面目に聞いてくれ。さっき一生を好きでいろとは言ったけど、弥生はまだ若い。今は自分しか見えなくても、いつか必ず別の男を好きになる日が来る。自分の事なんかどうでもよくなって幸せになるんだ。なぁ、弥生。そんな日が来たら二人で昔に戻ろう、たわいない話でバカみたいに笑ってた頃にさ」 「……ん、そんな日は来るのかな」 ジャッキーの優しさが嬉しかった。 イタズラに”好きでいろ”と言ったんじゃない、淋しさに負けてアタシが自棄にならないように、アタシが傷付かないように、距離を取って守ってくれているんだ。 こんなのズルイよなぁ。 他の男を好きになんてなれないよ。 アタシはやっぱり、ずっと一生ジャッキーが好きなんだろうな。
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