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「ごめんな、矛盾した酷い事を言ってるのは十分承知だよ。だけど自棄になった弥生が傷付いて泣くのを見たくないんだ。だったら自分の手で傷付けた方がよっぽどマシだ」
両手を頭の下にやり、まっすぐ天井を見たままのジャッキーが言った。
”自分の手で傷付けたほうがマシ” か……だったら傷付けてよ。
深くて切なくて声が出てしまうくらいに。
付けた傷が治らなくて、それでも何度も何度も傷付けてよ。
「もう無理して気持ちを隠さなくていい、何度も好きだと言えばいいよ。不安と不満に耐えられなくなったら自分にあたれ、自分になら何をしたって構わないから。ただ弥生自身を傷付けるのは止めてくれ」
フォークのコト言ってるんだ。
悲しそうな横顔を見ていたら、すごく申し訳ない気持ちになった。
「あ……ごめん。あんなコトはもうしないよ」
アタシが素直にあやまると、「絶対な」と言って笑う。
もうしない、本当だよ、絶対にしないからね。
「飲みに行っても構わない。付き合いもあるだろうからなるべく束縛はしない。そのかわり前にやったウサギを必ず持っていけ。遠隔で監視する」
「監視!? 怖っ! ジャッキー怖いよ! 引くわ! アタシが引くわ!」
「そうそう、飲みに行ってもいいが無茶な飲み方はいただけない。終電前には帰ってこい」
「始発じゃなくて? いや……さすがに不可能だよ。下手すりゃ終電で出掛けるってのに。んだよ、結構厳しいな」
”一生好きでいろ”って言われて、勝手だなと思う反面嬉しかったのに。
いろいろ厳しくてちょっとグッタリ……と思っていたら、ジャッキーは頭の下の手をほどくと、身体を横に向けてアタシを見た。
その顔は優しくて真剣だった。
「それから……今から言う事は真面目に聞いてくれ。さっき一生を好きでいろとは言ったけど、弥生はまだ若い。今は自分しか見えなくても、いつか必ず別の男を好きになる日が来る。自分の事なんかどうでもよくなって幸せになるんだ。なぁ、弥生。そんな日が来たら二人で昔に戻ろう、たわいない話でバカみたいに笑ってた頃にさ」
「……ん、そんな日は来るのかな」
ジャッキーの優しさが嬉しかった。
イタズラに”好きでいろ”と言ったんじゃない、淋しさに負けてアタシが自棄にならないように、アタシが傷付かないように、距離を取って守ってくれているんだ。
こんなのズルイよなぁ。
他の男を好きになんてなれないよ。
アタシはやっぱり、ずっと一生ジャッキーが好きなんだろうな。
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