第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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翌朝。 アラームをかけ忘れるという失敗で、アタシ達はぐっすりと眠り込んでいた。 3カ月間、訓練に明け暮れて休み無しだったし、昨日の夜もバタバタしてて、ちょっとやそっとのコトでは起きないくらいの熟睡っぷりだったんだと思う。 先に目が覚めたのはアタシだった。 カーテンの隙間から入る陽の光に薄く覚醒する。 寝る前に繋いでいた小指は、眠りについた時にほどけてしまったようで離れていた。 だけど……枕のないアタシの頭の下には、大好きな男の腕があった。 そして太い腕の肘の部分は曲げられて、アタシを包むように抱いていた。 寝てる間にこうなったのか……そう思ったら幸せで嬉しくて、すぐ目の前にある厚い胸に顔を押し付け大きく息を吸った。 良い匂いだなぁ、幸せだなぁ。 ああ、この人が欲しいなぁ。 なんでアタシだけのモノじゃないんだろう? この人が手に入るなら、きっとアタシはなんでもする。 悪い事だって躊躇わない。 そのくらい、この人がほしい。 ジャッキーを起こさないように、潰れるほど押し付けた鼻で、胸の匂いをずっと嗅いでいた。 我ながらどうかと思うけど、心地良くて安心する匂いなんだから仕方がない。 そう言えば、ネットで読んだコトがあるな。 女は自分の持っている遺伝子とは違う遺伝子を持つ男に惹かれるって。 違う遺伝子を持つ男の匂いが、どうしようもなく心地よく感じるって。 ジャッキーはアタシが持っていない遺伝子を持っているのかな。 だから良い匂いだと思うのかな。 だってずっと嗅いでいられるくらいに心地良いよ。 ぜんぜん目を覚まさないジャッキーの胸の中、心臓の音を聞きながら、ずっと心地良い匂いを楽しんでいた……というかやめられなかった。 好きだけど、好きだから嗅いでいたいとか、そういったものを超えている気がした。 もっとこう本能が欲するような、突き動かされるような強い気持ち。 アタシはそれがなんだかよく分からなくて、でもどうしてそう思うのかが気になって、できるだけ早くその答えを見つけなくちゃいけない気がして焦ったんだ。 そわそわ落ち着かない自分をリセットしたくて、眠るジャッキーにキスをした。 起こさないように、そっとつけるだけにするつもりだった。 その時、閉じた唇に微かな唾液を感じたの。 それは匂いも味もとてつもなく甘くて、その甘味がもっと欲しくて、激しくしたら起こしてしまうかもしれないのに、どうにも我慢ができなくて、まるで昨日の晩のように夢中になった。 昨日と違うのは、まだ半分夢の中のジャッキーが、アタシと同じくらい激しくキスをかえしてくれたんだ。 ジャッキー……ジャッキー……ああ、好き、大好き……ああでも、それだけじゃない……これって、 突如、キスが止まった。 唇を離したジャッキーがアタシを見てる。 ああ、起きちゃったか……もうこれでキスは終わりだ。 きっと怒られる、でも、あと少しで答えが分かりそうだったのに。
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