第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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アタシにとって奇跡が起きた。 半身を起こしかけたジャッキーが、覚醒しきれていない顔でぼんやりと、なんとも言えない表情でアタシを見下ろしていた。 きっとアタシはバツの悪い顔をしてたんだ。 なにも言えない、言い訳のしようがない、一生好きでいろとは言われたけど、キスしていいとは言われてない。 怒られる、覚悟を決めて見上げていると、何を考えているのか、ジャッキーはアタシの顎を乱暴に掴み、そのまま黙って唇を押し付けた。 あ、と思った。 アタシからじゃないキスに、身体は感電したみたいに痺れきったんだ。 だけどすぐに思ったのが、 寝惚けてるの? アタシとマジョリカを間違えてるの? 鼻の奥がツンと痛んだ。 でもそれもほんの一瞬。 だってそのキスはアタシの頭を真っ白にして、思考のほとんどを奪ってしまった、そのくらい甘く情熱的だった。 一瞬で落ちたアタシはジャッキーへの愛はもちろんだけど、同じ男を愛するマジョリカの事でさえ愛しく感じていたんだ。 唐突だった。 その時、アタシの中に一つの答えが出た。 なんでこんなに心地良い匂いだと感じるのか、なんでこんなにこの人が欲しいのか。 それはアタシはこの人だけじゃなくて、この人の、ジャッキーの子供が欲しいと思ってるんだ。 ジャッキーにそっくりな、アタシにもそっくりな、なんならマジョリカにも似てていい。 ああ、だからだ、だから確信が持てたんだ。 アタシはジャッキーが既婚者だろうが、マジョリカしか愛せなかろうが、それでも嫌いにはなれない、一生好きなんだって。 この人の子供が欲しいよ、どうしても欲しいよ。 どうしたらジャッキーを説得できるだろう? どうしたらマジョリカを傷付けずに説得できるだろう? そんなコトが頭の中に回り始めた時、ジャッキーはキスをやめた。 今度こそ目が覚めたんだろうな、マジョリカと間違えた事に気が付いたんだ。 ごめんね、マジョリカが良かったよね、本当にごめんね。 「弥生、」 ジャッキーがアタシの名前を呼んだ。 真っ直ぐにアタシを見てる、何を言うの? なんでもいいけど、お願いだから謝らないで、マジョリカと間違えたなんて言わないで、お願、 「今のをずっと覚えてろ」 ジャッキーはそれだけ言うと、倒れるように眠りについて夕方まで起きる事はなかった。 その日、アタシ達は初めて訓練を休んだ。
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