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アタシにとって奇跡が起きた。
半身を起こしかけたジャッキーが、覚醒しきれていない顔でぼんやりと、なんとも言えない表情でアタシを見下ろしていた。
きっとアタシはバツの悪い顔をしてたんだ。
なにも言えない、言い訳のしようがない、一生好きでいろとは言われたけど、キスしていいとは言われてない。
怒られる、覚悟を決めて見上げていると、何を考えているのか、ジャッキーはアタシの顎を乱暴に掴み、そのまま黙って唇を押し付けた。
あ、と思った。
アタシからじゃないキスに、身体は感電したみたいに痺れきったんだ。
だけどすぐに思ったのが、
寝惚けてるの?
アタシとマジョリカを間違えてるの?
鼻の奥がツンと痛んだ。
でもそれもほんの一瞬。
だってそのキスはアタシの頭を真っ白にして、思考のほとんどを奪ってしまった、そのくらい甘く情熱的だった。
一瞬で落ちたアタシはジャッキーへの愛はもちろんだけど、同じ男を愛するマジョリカの事でさえ愛しく感じていたんだ。
唐突だった。
その時、アタシの中に一つの答えが出た。
なんでこんなに心地良い匂いだと感じるのか、なんでこんなにこの人が欲しいのか。
それはアタシはこの人だけじゃなくて、この人の、ジャッキーの子供が欲しいと思ってるんだ。
ジャッキーにそっくりな、アタシにもそっくりな、なんならマジョリカにも似てていい。
ああ、だからだ、だから確信が持てたんだ。
アタシはジャッキーが既婚者だろうが、マジョリカしか愛せなかろうが、それでも嫌いにはなれない、一生好きなんだって。
この人の子供が欲しいよ、どうしても欲しいよ。
どうしたらジャッキーを説得できるだろう?
どうしたらマジョリカを傷付けずに説得できるだろう?
そんなコトが頭の中に回り始めた時、ジャッキーはキスをやめた。
今度こそ目が覚めたんだろうな、マジョリカと間違えた事に気が付いたんだ。
ごめんね、マジョリカが良かったよね、本当にごめんね。
「弥生、」
ジャッキーがアタシの名前を呼んだ。
真っ直ぐにアタシを見てる、何を言うの?
なんでもいいけど、お願いだから謝らないで、マジョリカと間違えたなんて言わないで、お願、
「今のをずっと覚えてろ」
ジャッキーはそれだけ言うと、倒れるように眠りについて夕方まで起きる事はなかった。
その日、アタシ達は初めて訓練を休んだ。
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