第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ 「エイミーちゃん、大丈夫? なんか顔が真っ赤だけど」 弥生さんのひんやりとした手の甲が僕の頬に触れた。 はぁ……冷たくて気持ちいいなぁ。 てか、あまりにも赤裸々な話に圧倒されっぱなしだ。 「だいじょうぶです、ただ、もう、なんていうかアダルティなお話というか、もう、なんか、その……ねぇ」 なんて言って良いか分からない。 普段、一番よく話す大福とは(まぁ、姫様は“うなぁん”としか言わないが)「おやつの”ちゅるー”はカツオ味にする? それともホタテ?」だし、社長やユリちゃんや先代と話すのも、仕事やおやつに淹れるお茶の話、もしくはご今日のランチはどこに食べに行こうかとかだし。 学生時代の友達とたまに会った時だって、お互いの近状報告と共通の友達が結婚したってよ、とかそんなことろで、ガッツリ恋の話をする機会はない(いいんですぅ、そのうちするんですぅ)。 そんな僕にとって、話の後半は特にもう、弥生さんとジャッキーさんがチューしたコトがあるのかと思うと、キャーーー! だし、次にジャッキーさんに会った時、うっかり「僕にもチューしてください!」なんて言ってしまうかもしれない。 や、これは半分冗談(半分?)。 「大袈裟……キスしかしてないだろ。エイミーちゃんは乙女かよ。でもまぁ、誰にでも話せる内容じゃあないし、会社のヤツらは知らないから、これはアタシとエイミーちゃんの秘密にして、」 あ……ジャッキーさんの言い回しと同じだ。 ____自分とエイミーさんの秘密にして、 仲の良い友達や恋人、夫婦なんかもそうだ。 一緒にいる時間が長くなればなるほど似てくるんだよね。 顔も、行動も、好きなモノも、嫌いなモノも、そして話し方や言い回しも。 「ジャッキーさん……奥様はいらっしゃるけど、弥生さんの事も好きなんですかねぇ」 独り言のような僕の呟きを拾ってくれた弥生さんはこう言った。 「さぁね。少しは好きと思ってくれてりゃいいんだけど。でもさ『ずっと覚えてろ』なんて言ったクセに、別にそのあと何も変わらなかった。あれから5年経つけど、相変わらず『自分は既婚者だー』だの、『妻しか愛せないー』だの、『弥生の気持ちには応えられないー』だしさ。定型文かよ、雛形かよってくらい。ま、その定型文に毎回メンタルやられるんだけどさ」 テヘ、と小首を傾げておどける弥生さんだが、なんたって今日は特メイ班直伝メイクでマイナス12才なもんだから、その笑顔がめちゃくちゃ可愛くてドキっとしてしまう。
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