第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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弥生さんの部屋は、僕の部屋に比べて随分と広かった。 玄関を入ってすぐに簡易キッチンがある典型的なワンルームとは違い、歩いて10歩くらいの廊下の向こう側に部屋がある。 部屋に着く前、廊下を挟んで左側に風呂とトイレ(別々よ!)、右側にはちゃんとガスコンロが設置されたキッチンがあった。 仕切りのドアを開けるとフローリングは広くて、聞けば12畳あるという。 角部屋だから窓も二か所で、昼間は陽当たりが良いそうだ。 「うわぁ、これで僕ん()より家賃がお安いなんて羨ましい!」 そうなのよ。 ウチより広くて陽当たりも良いのに、お家賃は2万円も安いのだ。 「そりゃエイミーちゃん()は駅近だろう? ウチは駅から遠いもん。その分が安いんだよ」 んー、確かにねぇ。 今のアパートの前に住んでいたトコは駅から遠かったから、やっぱり家賃は安かった。 「どうする? ちょっと休んでからシチュー作るか?」 と弥生さんに聞かれたが、こういうのは一旦座ると中々立ち上がれなくなるのだ。 帰ってきた勢いでこのまま作り始めた方が良い。 それに僕達はお昼抜きで腹ペコだもの。 「いや、僕もう作っちゃうよ。弥生さんはビールでも飲んでて」 弥生さんからエプロンを借りて(シンプルなので良かった。フリルだったらどうしようかと……)、「手伝うよ」という先輩霊媒師を座らせた。 シチューの前に。 取り出したトマトとモッツァレラチーズを、幅5ミリ強にスライスし生ハムで包む。 借りたお皿に丸く並べ立て、上からブラックペッパーを散らし、最後にオリーブオイルを少し垂らしたら……完成だ。 「弥生さん、これビールのつまみ。すきっ腹にアルコールは胃に負担をかけちゃうから」 「ちょっと! エイミーちゃん天使! マジ天使!」 やたら天使を連発する弥生さんは、僕の作ったつまみを美味しそうに食べている……ふふふ、嬉しいなぁ。 キッチンを使わせてもらうにあたり、ざっと配置等を確認すると、使っている形跡はアリアリなのに、すこぶる清潔で道具もたくさん揃っていた。 見た目の派手さからは想像がつかないけど、普段から料理をする人のキッチンだ。 特売お肉を柔らかくする為に炭酸に先につけ、その後野菜を切りまくる。 ジャッキーさんに作ってもらったゴロゴロ野菜を再現する為、大きめにカットする。 さてさて、お鍋を借りるとするかと、棚を開ければナント! 圧力鍋があるじゃあないですか! す、素晴らしい! これがあればシチューはすぐ出来る! 圧力鍋先生にシチューをお願いしている間に、サラダとキッシュも完成し、テーブルに並べてく。 そのたび弥生さんは「天使! アリガト! サイコー!」と大騒ぎ。 そんなに喜んでもらえると、僕までめっちゃテンションが上がってしまう。 埼玉の廃病院では善霊軍団の中心で喋りまくって、大いに盛り上げた弥生さんは、きっとトークがうまいだけじゃないんだな。 話の中で必ず相手を褒めるんだ。 ニコニコ笑って、手ぶり身振りで嬉しー! ありがとー! って感情を丸出しにするんだ。 明るくて美人で褒め上手の盛り上げ上手。 おまけに料理もうまくて仕事も出来る。 こんな女性に7年も想われるなんて、男としてジャッキーさんが羨ましいや。
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