第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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「去年の春だ。ジャッキーから連絡がきて、飲みに行かないかって誘われたの。珍しいなぁって思ったよ。ゴハンじゃなくてお酒なんてさ。お店で待ち合わせて二人で飲んだんだけど、アイツすっごい酔っぱらっちゃってさ」 「参考までに、ジャッキーさんと弥生さんって、どっちがお酒強いの?」 「アタシに決まってんだろ」 あーやっぱりか。 弥生さんは「アイツも弱くはないけど、その三倍は飲めるよ」と笑う、マジか。 「その日の昼間。ジャッキーは、妹さん一家と下のお子さんの誕生日会をしてたんだって。5才の男の子で『大きくなったらスタントマンになる』と言われたってデレデレしてさ。甥っ子ちゃんの話しながらガンガン飲んで、帰る頃にはベロンベロン。アタシは酔っぱらいの扱いは慣れてるから、タクシー拾ってジャッキーん()まで連れて帰って、あの巨体をなんとか玄関に押し込んだ時、アイツな、」 ____甥っ子、すごく可愛かった、 ____弥生ぃ、自分も子供が欲しいよ、 「って言ったんだ。それ聞いた時、ジャッキーも本当は子供が欲しいんだなぁって思ってさ。家族の誕生会に呼ばれて、可愛い甥っ子ちゃんといっぱい遊んで、その幸福感を抱えたまま独りの家に帰りたくなかったんだよ。それでアタシを呼び出したんだ。淋しくなっちゃったんだろうな。そう思ったらさ、一度は諦めたはずなのに、ジャッキーの子供が欲しいてって想いが再燃しちゃったの」 はぁ……っと、弥生さんは何度目かの溜息をついた。 数瞬の沈黙後、弥生さんはハッとして僕を見た。 「誤解しないでね? 間違っても産んであげるなんて思ってない。アタシが欲しいんだ。産んでも一人で育てる。だけどアイツがもし望むなら、会う事だって出来る。子供がいたらアタシは最高に幸せだし、ジャッキーも、もしかしたら幸せに思う日が来るかもしれない。やっぱり子供が欲しいよ。だけどさ、それを本気で望むなら、急がなくちゃいけない年になっちゃったんだ」 「リミットを意識するようになったって事?」 うん、とコクリと頷いて肩を落とす弥生さんは、ビールの缶を置いた。
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