第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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「弥生さん、こんなコト聞くのは酷かもしれないんだけど……もし、ジャッキーさんがどうしてもダメだって言ったらどうするの?」 だいぶお腹もいっぱいで、食後にシンプルなグリーンティーを淹れながら聞いてみる。 少ししたら、デザートのヨーグルトを持ってこよう。 無糖のビックサイズを二つ買ってある。 別売りソースはラズベリーとキウイを二人で選んだ。 「ん……どうしようしようもないよね。だって一人じゃ子供は作れない。諦めるしかないよ。あーーーもう、いっその事、」 「いっその事?」 「口寄せして、先に(・・)マジョリカを説得しようかなぁ」 えっ!? この人ナニ言っちゃってんの!? 危うく、お茶を毒霧するトコだったよ! てか、えぇ? 「あのー、弥生さん? 話がブッ飛びすぎて意味が分かんないんだけどさ、なんで奥様口寄せするの? 説得する? なにを? ジャッキーさんの子供がほしいんですって? 冗談でしょ? え? 本気?」 僕は相当マヌケな顔をしてたんだと思う。 弥生さんは僕を見て「落ち着けよ」と言った。 いや、アナタが落ち着け。 「結構本気。だってもう手が無い」 「や……この人、地雷物件だわ」 「オイ、地雷って言うな」 無理、だって地雷以外の何物でもないもん。 「あのさ、あり得ないから。奥様に『迷惑かけません! 子供が欲しいだけ! 許可クダサーイ!』って言って(弥生さんの事だからこんな言い方だろうと予想)『オッケー! ノープロブレム!』って言ってくれると思う?」 んーと10秒考えた弥生さんは、 「交渉次第?」 と答える。 駄目だ、この人。 地雷物件兼ポジティブモンスターだわ。 「交渉以前の問題だよ。決裂不可避」 「マジで? アタシ、本気でぶつかれば結構イケルと思ってんだけど」 なにその自信。 マジでポジティブモンスター、これは現実を突きつけないとダメなヤツだ。 「残念なお知らせですが、無理です! 駄目です! 常識です! てか弥生さん、バカなの? ねぇ、バカでしょ。あ、ヤベ、言っちゃった」 「エイミーちゃんまでバカって言うな! ……って、やっぱ駄目か。  まぁ、そうだよなぁ。ただね、もしジャッキーがいいよって言ってくれたとして、その時はマジョリカにも話そうと、元々思ってたんだ」 「だからさぁ……なんで波風どころか、嵐を起こそうとしちゃうの? もしジャッキーさんがOK言ってくれても、わざわざ奥様に話したら駄目になるに決まってる。ジャッキーさんもガチギレするよ」 呆れてしまう。 たわいない話をしてる時の回転の速さ、切り返しの絶妙さ、そういったのがウソのように思える。 ガチ馬鹿正直な子供のようだ。 「ん……でもさ、内緒で子供作っても後から絶対バレちゃうよ。先代に聞いたコトがあるんだ。人は死ぬと黄泉に逝くか地獄に逝くかジャッジされる。生前どう生きてきたか全てを視られて丸裸にされるんだ。隠し事は何も出来ない。子供を作って内緒にしても、後でマジョリカに知れた時はジャッキーが責められる。言わずにバレるのと自分から言うのでは違うしさ。だからアタシが無理を言ったんだって、むしろジャッキーは被害者だって、それは言っておかないと」 ああそうか……そういう事ね。 弥生さんはジャッキーさんの立場を守ろうとしてるのか。 「時間がないってもの切実だ。アタシは38で急がないと間に合わない。いや、そりゃあさ、今はもっと年齢が上でも大丈夫って言われてるけどさ、アタシの場合……長年大酒飲みまくってきたし、それに親は頼れないからさ。産めたとしても、一人でなんとかしなくちゃいけない。そうなると産んだ後の体力も計算にいれなくちゃいけないからね」
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