第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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親は頼れない? なんで? まぁ、事情があるんだろう。 これは安易に聞いちゃ駄目なヤツだ。 僕が黙っていると、表情から察したのか、それともこの手のやり取りは慣れているのかこう言った。 「ウチの実家は再婚なんだ。アタシは父親の連れ子。アタシが小学生の頃に親が再婚して、すぐに妹が生まれた。年は一回り違うけど、妹とは仲が良いい。義理の母親も悪い人ではないけど、アタシが元ヤンで迷惑もかけたし、なにより妹が出来てからアタシだけ家族じゃない気がしてさ。昔から困った事があっても頼りにくいの」 そうか、だからジャッキーさんは言ってたんだ。 ____一人でどうしようもない時は電話しろ、いいな? これは弥生さんの実家が複雑で、頼りにしにくいという事を知っていたのだな。 ジャッキーさんは独り暮らしの弥生さんを心配してるんだ。 「ごめん、なんか余計な事を聞いちゃった。でもね、僕は聞けて良かったと思ってる。この先、なにか困った事があって、一人じゃどうにも出来なくてってコトがあったら、僕にも連絡して。大して役に立たないかもだけど、いないよりマシだから」 僕だって大福はいるけど、生者のカウントで言えば一人暮らしだもの。 風邪ひいた時とか不安だし、助けを求められる友達は一人でも多い方がいいと知っている。 「アリガト……エイミーちゃんは優しい子だね。マジョリカには悪いけど一度話してみたいってものあるんだ。ジャッキーからマジョリカの話を聞かされてきたからね。最初は嫉妬で嫌いだって思ってた頃もあったけど……アタシも年を取ったんだろう、今はそうでもない」 そっか……これはもう弥生さんが子供を諦めない限り、避けられない事なんだな。 あ、でもさ、その前に、 「思ったんだけどね、いきなり弥生さんが口寄せしないで、ジャッキーさんが呼び出して、先に夫婦で話してもらった方がいいんじゃない? まぁ、それもジャッキーさん全力拒否しそうだけど……どっちにしたって、奥様もいきなり弥生さんに口寄せされたらテンパるでしょ」 そう聞いてみる。 「あー、うん、それは無理。ヤツはただでさえ霊を引き寄せちゃうのに、口寄せなんか発動させたら、それに引っ張られた野良霊がどんだけ集まるか予想がつかない。おそらく百、二百は軽く集めちゃうと思うんだ。そうなると、ウチの霊媒師だけじゃ対処しきれない。だからね、昔からジャッキーは口寄せするなって禁止令がでてるの」 肩をすくめて「霊力(ちから)が強いのも考えモノだ」と苦く笑う弥生さん。 となると……呼び出すなら弥生さんしかいない訳ね。 「ま、今はまだ口寄せしないよ。できれば先にジャッキーを説得したい。あぁ……でもやっぱり無理なのかなぁ」 正直……無理だと思う。 だけど僅かな可能性に縋る弥生さんに、今ここで強く言う事が出来ない。 あぁ、まったく。 この人は”強くて、頼れる姐御肌”じゃなかったんかい。 「エイミーちゃん、アタシが心配か?」 僕の表情を読んだのか。 バツが悪そうに肩をすくめ、ふにゃりと笑って僕に問う。 ビールはもう3本目でほんのり頬が染まり艶がある。 長いまつ毛の大きなつり目がトロンと甘さを含んでる。 うーん……一応僕も男なんだけどなぁ。 社長曰く、“草しか食ったコトがねぇオトコ” な僕だから良いけど、なんかもう、いろいろ、総合的に、危なっかしい人だなぁ。
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