第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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ボワァ…… あれ? 今のなに? フローリングの床に投げ出された、弥生さん愛用の黒のリュックの一部がボワァっと緑に光った気がした。 時間にして数秒程度の短さだけど、今のはなんだったんだろう? 光はリュックの内側から光っている感じで、それが布越しに透けて見えたような感じだった。 あ、分かった。 きっとスマホが入れっぱなしになってるんだ。 ブルーライトって意外と強い光だからなぁ。 そんなコトより。 「弥生さん、ここで一旦デザートいっとく? 話の続きは甘いものをいただきながら」 「いいねぇ! 手伝うよ」 そう言って立ち上がる弥生さんに、いいよって言おうと思ったんだけど、そんなに大変な作業じゃないし、二人で用意すれば早いしと思ってお願いしたんだ。 「じゃあ、食べ終わった食器は下げちゃおう。洗うのは僕が後でやるよ。テーブルだけ空けばいいから」 「うん!」 背が低くて華奢な弥生さんは、飛ぶるように立ち上がると、「また作ってな」と次回の夕飯を予感させつつ食器を運んでくれた。 楽しそうに片付けるこの人は元気で可愛いらしい。 ジャッキーさんは、この人の愛を7年も拒み続けてるんだよな。 弥生さんも辛いだろうけど、もしかしたらジャッキーさんも辛いんじゃないだろうか? なんて、勝手な想像だけどさ。 「弥生さん、ヨーグルトいっぱい食べる?」 「もちろん! ソースも両方がいい、どっちも食べたいからな!」 「あははは、じゃあゾーンに分けて両方かけよう。それと弥生さんが食べれる分に合った器をかしてもらえる? あ、僕もいっぱい食べるよ」 「分かった! なるべくデカイのがいいな……んーじゃあコレだ!」 ニコニコしながら持ってきたのは、インドテイストのリアルな象の絵が一面に描いてあるカレー皿だった。 や、確かに二人共いっぱい食べるとは言ったけど、カレー皿って…… 「ぷっ!」 思わず吹き出してしまった。 こんな模様の皿、どこで買ったんだよという突っ込みと、デザートのヨーグルトにカレー皿ってどんだけ食べたいんだって思ったら、昼間泣いている弥生さんには出来なかったのに、自然な動きで艶の前髪をナデナデしていた。 「な、なんだよ! その含みのある笑いは!」 撫でられているコト自体はされるがままだが、肩を震わせて笑う僕を見上げて抗議している姿は、もはや手練れの先輩霊媒師ではなくなっていた。 年は上でも妹というか、自分で言うのもなんだが僕自身があまり男っぽくないのもあって、女同士の友達みたいなノリになっていた。 「や、ゴメンって。怒らないで。誰だって笑うよ、でも良い! いっぱい食べてくれるのって、こんなに嬉しいものなんだね。ジャッキーさんも言ってたんだ、腹ペコの子にいっぱい食べさせるのが好きだって。気持ちが分かったよ。よし、弥生さんのヨーグルトは僕より多めにしとこう」 年下の新人に笑われてプリプリしていた弥生さんだったが、ヨーグルト多めにというトコでご機嫌に戻ってくれた。
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