第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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話している内容はぶっちゃけくだらない。 だけど弥生さんと話していると、会話は延々続くラリーとなる、僕が話し上手なんじゃない、弥生さんが言葉を引き出してくるんだ。 この人こんなに楽しかったんだ。 現場で会ったときと全然違う。 もっとずっと話していたいな。 お喋りして笑いながらの作業はぜんぜん進まなくて、時間はかかったけど、とはいえ15分? 20分? くらいなもので、けっこうしっかりシチューを食べた僕達にはちょうどいいくらいだった。 ガチャッ! ん? なんの音だ?  キッチンに二人で並び、ヨーグルトにソースをかければ完成というところで、玄関方向から聞こえた音。 直後、乱暴にドアが開けられる音がした。 えっ! 今ドア開いたよね!? さっき一緒に帰ってきた時、弥生さんは鍵をちゃんとかけていた、じゃあ誰が入ってきたんだ!? 弥生さんは表情を強ばらせている。 正体不明のビジターに、咄嗟に弥生さんを僕の背中に隠したすぐ後。 汗だくのジャッキーさんが、義足の足音を響かせながら大股で入ってきた。 「ジャッキーさん!?」 「…………なんで?」 なんで? 本当になんでだ。 呆気にとられる僕達の前に来たジャッキーさんは、迷う事なく後ろの弥生さんの手を引っ張った。 「痛いよっ!」 抗議めいた声。 乱暴に引き寄せたジャッキーさんは、冷たい声でこう言った。 「部屋に男を入れるなって言ったよな?」 手首を掴まれた弥生さんは、腰をくの字に曲げてジャッキーさんと距離を取ろうとした。 が、もう片方の大きな手が、逃げる腰を掴み寄せて離さない。 弥生さんは動きを封じられながらも気丈に抗議する。 「ナニ言ってんだよ! 男じゃないよ! エイミーちゃんだよ!」 いや、男です。 書類の性別欄に【男】【女】【エイミー】って記してあるの見たコトある? ないでしょ? って、そんな事より……なんでジャッキーさん部屋(ココ)に来たの……? 弥生さんと距離を置いてるはずなのに。
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