2366人が本棚に入れています
本棚に追加
今、この部屋は非常に混乱している。
奥様のいるジャッキーさんに長年片想い中の弥生さんは、アナタの子供が欲しいですと願って以来、距離を置かれていた。
恋愛のパワーバランスで言えば、弥生さんは圧倒的な弱者であって、切ない想いを重ねてきた。
なのに今、そのバランスが崩壊している。
穏やかで優しいはずのジャッキーさんは、フルマラソンでも走ってきたかのように汗だくで、インターホンも鳴らさずに、おそらく合鍵で押し入ってきた(なんで持ってるんだよ)。
そして”おじゃまします”も”こんばんは”もなく、開口一発、”部屋に男を入れるなと言ったよな?”と、弥生さんの腕を掴んでガチギレで詰め寄っているのだ。
ココだけ見たら、まるで彼女にゾッコンのヤキモチ彼氏が、キレまくってるみたいじゃない?
ジャッキーさんの気持ちが読めない。
「ジャッキー、またウサギ使ってこの部屋見たんだろ! 監視は飲みに行った時だけじゃなかったの!?」
ウサギで監視……?
あっ! もしかして、さっき弥生さんのリュックが光ったアレは緑色だった。
緑と言えばジャッキーさんの霊力が発動される時の固定カラーだ(弥生さんは紫、水渦さんは青、社長は赤ね)。
スマホのライトかと思っていたけど、ジャッキーさんがウサギにログインした瞬間だったんだ。
弥生さんはジャッキーさんから貰った大事なウサギをいつだって持ち歩いている、それがリュックに入ったままでいた。
転がるリュックを改めて見れば、閉じていたはずのファスナーが開いているし、小さなウサギは床の上に倒れていた。
憑依の達人はウサギの中から、僕達を視ていたのだろう(水渦さんかよ)。
弥生さんの言葉から推測するに、ウサギ監視は飲みに行った時は許可するも、部屋にいる時は許可しない。
その約束を破ってジャッキーさんは遠隔でウサギに入り込んだ。
部屋の様子を窺うと、いてはいけないはずの男、すなわち僕の声を聞き姿を視た。
よく分からないけど、ジャッキーさんと弥生さんの間で、この部屋に男性を入れないという約束事があったんだろう。
それで慌てて……というか、慌てるすっ飛ばしてガチギレしながら、自宅から弥生さんのアパートまで走ってきちゃったのか。
ジャッキーさん的に、僕を男としてカウントしてくれたって事はありがたいけど、間違いなんか起こるはずがない。
生物学上は男だけど、もっと冷静に考えてください。
確かにちょっと、弥生さん色っぽいなーなんて思ったけど、それ以上に僕は、猫の下僕で恋愛ポンコツですよ?
そんな事はあり得ません。
最初のコメントを投稿しよう!