第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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とにかく落ち着いてもらわなくちゃ。 「話を聞いてください。二人の間にどんな約束事があるのか、言葉を拾えばなんとなく分かります。僕と弥生さんにジャッキーさんが心配するような事はありません。だから離してあげてください。いつものジャッキーさんに戻ってください。 弥生さん大丈夫? 腕とか腰とか痛くない?」 この時、弥生さんに話しかけるべきではなかった。 華奢な弥生さんが、身体の大きなジャッキーさんに掴まれているのが心配で、思わず声をかけてしまったのだが…… 「エイミーさん、確か昼間に会社で会った時は、弥生に対して敬語を使っていたよね? たったの数時間で随分フランクになった。距離が縮まったのはナニかがあった? さっきキッチンで弥生の髪を撫でていたけど」 抑揚のない声だった。 キッチンで、僕が弥生さんの頭を撫でたのを霊視(みて)いたたのか。 僕を見る目がまるで殺し屋だ。 ガチで怒っている。 男の僕が一緒でそんなに気に入らないの? なんでこんなにテンパってるの? 想いに応えられないなら放っておけばいいのに。 てか、これってさぁ____ 「オイ落ち着けって! アタシがエイミーちゃんにタメ口で良いって言ったんだ。なぁ、約束を破って悪かったよ。アタシが頼んだんだ、ジャッキーのレシピのシチューを作ってくれって。だから悪いのはアタシだ。それにエイミーちゃんが良い子なのはジャッキーだって知ってるだろ? 悪い事する子じゃないよ」 弥生さんが僕を庇ってくれている。 だけどジャッキーさんは頑なだ。 「そういう問題じゃない。これは弥生と自分の約束だろう? 男はみんな(ケダモノ)と思えと言ってるじゃないか。去年、弥生の仲間とか言うヤツに部屋で襲われたのを忘れた? 自分が来なかったらどうなってた? だから駄目だ。たとえエイミーさんでも男というだけで駄目だ。おまえが傷付く可能性は全部自分が潰す」 ____去年の夏にさ……トラブって、 ____もう駄目だって思ったのに、 ____アイツは来て助けてくれたんだ、 さっき言ってたのって……トラブルなんてレベルじゃないよ。 それを助けたジャッキーさんなら、ここまで警戒するのも分かる。 だけど、それだけじゃない……このキレ方。 これにはプラスアルファがあるんじゃないか……? ジャッキーさんの濃いめの色のジーンズは、膝まわりがまだらに黒ずんで、おそらくあれは血液だ。 義足で走りまくったから、結合部分が擦れて血が出て染みているのだろう。 痛いだろうに……そんなになるまで走ってきたのか。 ねぇ、ジャッキーさん。 霊視したら部屋に男の僕がいて、それ視て家を飛び出しちゃったんですか? 電話をかける事も、アナタなら出来る声を飛ばす事も忘れてしまうほど慌てて、膝を血だらけにして、汗だくになって走ってきたんですか? 冷静さの欠片もないほどテンパって、着く早々声を荒げたんですか? 弥生さんが傷付く可能性を全部潰す為に? ねぇ、ジャッキーさん。 アナタ、本当は____ ____はぁ、まぁいいや。とりあえずジャッキーさんには、先に傷の消毒をさせてもらおう。
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