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とにかく落ち着いてもらわなくちゃ。
「話を聞いてください。二人の間にどんな約束事があるのか、言葉を拾えばなんとなく分かります。僕と弥生さんにジャッキーさんが心配するような事はありません。だから離してあげてください。いつものジャッキーさんに戻ってください。 弥生さん大丈夫? 腕とか腰とか痛くない?」
この時、弥生さんに話しかけるべきではなかった。
華奢な弥生さんが、身体の大きなジャッキーさんに掴まれているのが心配で、思わず声をかけてしまったのだが……
「エイミーさん、確か昼間に会社で会った時は、弥生に対して敬語を使っていたよね? たったの数時間で随分フランクになった。距離が縮まったのはナニかがあった? さっきキッチンで弥生の髪を撫でていたけど」
抑揚のない声だった。
キッチンで、僕が弥生さんの頭を撫でたのを霊視いたたのか。
僕を見る目がまるで殺し屋だ。
ガチで怒っている。
男の僕が一緒でそんなに気に入らないの?
なんでこんなにテンパってるの?
想いに応えられないなら放っておけばいいのに。
てか、これってさぁ____
「オイ落ち着けって! アタシがエイミーちゃんにタメ口で良いって言ったんだ。なぁ、約束を破って悪かったよ。アタシが頼んだんだ、ジャッキーのレシピのシチューを作ってくれって。だから悪いのはアタシだ。それにエイミーちゃんが良い子なのはジャッキーだって知ってるだろ? 悪い事する子じゃないよ」
弥生さんが僕を庇ってくれている。
だけどジャッキーさんは頑なだ。
「そういう問題じゃない。これは弥生と自分の約束だろう? 男はみんな獣と思えと言ってるじゃないか。去年、弥生の仲間とか言うヤツに部屋で襲われたのを忘れた? 自分が来なかったらどうなってた? だから駄目だ。たとえエイミーさんでも男というだけで駄目だ。おまえが傷付く可能性は全部自分が潰す」
____去年の夏にさ……トラブって、
____もう駄目だって思ったのに、
____アイツは来て助けてくれたんだ、
さっき言ってたのって……トラブルなんてレベルじゃないよ。
それを助けたジャッキーさんなら、ここまで警戒するのも分かる。
だけど、それだけじゃない……このキレ方。
これにはプラスアルファがあるんじゃないか……?
ジャッキーさんの濃いめの色のジーンズは、膝まわりがまだらに黒ずんで、おそらくあれは血液だ。
義足で走りまくったから、結合部分が擦れて血が出て染みているのだろう。
痛いだろうに……そんなになるまで走ってきたのか。
ねぇ、ジャッキーさん。
霊視したら部屋に男の僕がいて、それ視て家を飛び出しちゃったんですか?
電話をかける事も、アナタなら出来る声を飛ばす事も忘れてしまうほど慌てて、膝を血だらけにして、汗だくになって走ってきたんですか?
冷静さの欠片もないほどテンパって、着く早々声を荒げたんですか?
弥生さんが傷付く可能性を全部潰す為に?
ねぇ、ジャッキーさん。
アナタ、本当は____
____はぁ、まぁいいや。とりあえずジャッキーさんには、先に傷の消毒をさせてもらおう。
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