第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ 使った食器を洗っているキッチンで、すこぶる悪人のようなセリフが向こうの部屋から聞こえてくる。 「ウルサイ黙れ! いいから脱げ! つべこべ言うな!」 あーあー、酒焼けしたハスキーボイスでこのセリフは凄味すら感じるよ。 襲われている被害者の方も戸惑っているようで、 「消毒くらい自分で出来る。やめてくれ、恥ずかしいよ」 とタジタジだ。 「グダグダ言うな!(パシッ!)黙って脱げ!(パシパシッ!)グズグズするならアタシが脱がす!」 ガタンッ! あーあー、この部屋2階だし、あんまり騒ぐと迷惑になりますよー。 「分かった! 分かったから、叩かないでくれ! 隣にはエイミーさんがいるんだぞ、少しは考えろ! オイ……何をする……まてまてまて! 脱ぐ、今脱ぐからっ!」 えぇ……もしかして、僕がいたらジャマなのかなぁ、しょぼーん。 洗い物が終わり、全ての食器をキレイに拭き終わったところで、弥生さんから声がかかった。 「エイミーちゃーん、洗い物までしてくれてアリガトな! コッチも傷の手当て終わったよ。三人でお茶でも飲もうぜ」 部屋の仕切りドアから顔を出し、おいでおいでと手招きしてくれるのだけど、 傷の手当ての二人の様子が仲良しで、イロイロあって距離を取っていたのが、どさくさまぎれに縮まって、話をするには良いタイミングだ。 てコトは……僕ってやっぱりオジャマだよねぇ。 「や、でも、僕そろそろ帰らないと……」 と、カバンを取りに部屋に入ると、胡坐をかいたジャッキーさんが「まだ大丈夫だろう?」と僕に向かって手招きをする。 あ……なんか、いつもの優しい表情(かお)に戻ってる……柔らかなまなざしにホッとした僕は、フラフラとジャッキーさんの隣に座った。 「え、ちょ、エイミーさん? 近くない?」 大きな身体を斜めにして僕と少し距離を取るジャッキーさん、それを追うように寄りかかる僕。 「近いですか? てか、僕の事も呼び捨てにしてください」 「え……? なんで?」 「されたいからです」 訳が分からない……と言った顔で僕を見るジャッキーさん、ふふふ、困ってる困ってる。 さっきは僕を殺し屋のような目で見たんだ(けっこう怖かったんよ)、これは仕返しです。 少々イジワルな気分で困らせてやろうと思ったのに、 「よく分からないけど呼び捨てにすればいいの? ん……エイミー?」 ズキューーーーーーン!! 低音の呼び捨てに、僕はまんまと返り討ちにされてしまったのだ。
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