第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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____色んな意味でスゴイ子だよ。 こないだね、まだ数日の座学しかしていなくて、何も分かってない状態で現場に入れたの。 彼には清水君の仕事を傍で見せようと思ってたのに、霊のフィールドに独りで入り込んじゃってね。 その段階で習得スキルは、細い紐状の電気を1m程飛ばせるだけ。 それ以外は何も出来ない、何も知らない、ずぶの素人、なのに私も清水君もいなくて、霊と彼の二人きりになったんだ。 祓い対象の霊は悪霊とまではいかなかったけど、凄惨な殺され方をして11年も霊場に縛られていた女性だった。 ファーストコンタクトでは、エイミーさんを罵倒して拒絶して、挙句首を絞めたんだ。 元々の担当だった弥生ちゃんなら、攻撃されても電気鎖で縛りあげる、なんてコトも出来るけど、彼はそれも出来ない。 なんとか霊の攻撃から逃げたけど、次に襲われたら対抗できる霊武器もない。 そもそも電気で武器を構築する方法も知らない。 じゃあそのピンチをどうしたか。 エイミーさんはね、その女性の話を延々聞いてあげたの。 人が一人殺された経緯の話なんて辛かったと思うんだけど、彼は口を挟まず親身になって、時折泣きながら、ただただ聞いたんだ。 そうそう、途中、唯一使える霊力(ちから)、紐状の電気をこねて桜の花をいっぱい造ってあげてたな。 冷たくて暗い霊のフィールドが不揃いな電気桜で満開で、それはそれは綺麗だったよ。 ずいぶん長いコト話を聞いてあげて、女性がぜんぶ話終わった頃には、すっかりエイミーさんを信頼してた。 私がフィールドに着いた時、女性とエイミーさんは笑い合ってたんだ。 霊力(ちから)なんて桜を造るしか使ってないのにねぇ、腕力で黙らせるでも、鎖で縛るでもなく、成仏を無理に勧めるでもなく、人と人との対話で鎮めたの。 あの子の持つ穏やかな空気と、良い意味で没個性、人の痛みに敏感で、誰かが困っていれば自分には何が出来るだろうと考える、そんな人になら自分の話を聞いてほしいって思っちゃいますよねぇ。 エイミーさんは聞き上手なんですよ。 そして……まだ引き出せないだけで、持っている霊力(ちから)は誰よりも強い。 瀬山一族で百年に一度生まれるかどうか、と言われる”希少の子”と同じレベルだ。 彼はきっと、とんでもなく化けますよ。 楽しみですねぇ、私、まだまだ成仏できそうにありません____
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