第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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先代がそんな事を言ってくれてたなんて……すごく嬉しい。 印もちょっとしか結べないけど、口寄せも出来ないけど、まだまだだ全然けど、でも頑張ろう、一つでも多く学ぼう、と、涙目で拳を握る。 「先代からそう聞いていたからね、もしかしたら弥生は、エイミーさんに話を聞いてもらうのかなと思ってた。それはいいんだ。エイミーさんは話を聞いても茶化す子じゃない。ただ……色々恥ずかしいというか……ねぇ、エイミーさん。自分が駄目な大人でガッカリしたかい?」 困ったように笑うジャッキーさんが、僕にそう聞いた。 「いえ……人は正論だけではどうにもならない事もあると思います。もし僕がもっと若くて十代で純粋で多感な頃だったら、そう思ったかもしれないけど、僕も30です。少しだけ多角的にモノを見る事が出来るんじゃないかなぁと思ってます。なぁんて、えへへ」 ジャッキーさんには奥様がいる。 気持ちの奥底で揺れる事はあったかもしれないけど、ジャッキーさんは弥生さんの愛を7年連続で突っぱねてきたのだ。 それを思えば、駄目な大人でガッカリしましたなんて、僕には言えない。 デザートのヨーグルトをテーブルに並べ、僕は一人で、弥生さんとジャッキーさんは二人で分け合って食べている。 弥生さんはお母さんがそうするように、スプーンにすくったヨーグルトをジャッキーさんの口元に差し出した。 ジャッキーさんは口を開けかけて、僕がいる事を思い出したのか、弥生さんからスプーンを受け取って自分で食べていた。 その様子を見たからって訳じゃないけど、さっきから思っていた事を口に出してみる。 「ジャッキーさんって、本当は弥生さんの事がめちゃくちゃ好きですよね?」 ゴフォッ!! 僕の一言にジャッキーさんは盛大にむせた。 弥生さんはポカンと僕を見た後ハタと我に返り、ジャッキーさんの背中をゴシゴシさするとお茶を渡した。 同時に僕は急須にお湯を足すべく、ポットに手を伸ばした。 今のでジャッキーさんのお茶は空になったはず、”株式会社おくりびのお茶担当”としては、それを見逃す訳にはいかない。 テーブルに置かれたマグカップを引き寄せると、ふふふ、やはり空っぽ。 急須にお湯を入れ少し蒸したら、おかわりを注ぎ、ジャッキーさんの前に置く。 散々むせたあと、やっと落ち着きを取り戻したジャッキーさんは、 「お茶……ありがとう。あのね、エイミーさん。ナニ言ってるの? 弥生の事は好きだよ? でもそれは妹としてであって恋愛感情ではない。だいたい自分は既婚者だ。妻以外は愛せないよ」 と、若干レキナってる(マイルドな”あばばばば”って感じ?)。 「ふぅん、本当ですか? 僕が部屋にいるの霊視(みて)ガチギレで走って来たのに?」 「ああ、」 「さっき僕のコト殺し屋の眼力で睨んできたのに?」 「ああ。……自分、そんな目してた? ごめん」 「僕が敬語使ってないだけで、めっちゃ圧かけてきたのに?」 「ああ、」 眉を八の字にしたジャッキーさんは言葉短かに、恋愛感情はないと繰り返す。 ふぅん、そうですか。 ジャッキーさんの隣に座る弥生さんは、繰り返す否定を聞くたび、小さく肩を落としてる。 7年好きで、5年アナタの子供を望み、タバコをやめて、先月には頭を下げて願いを叶えてくれと懇願したはずだ。 奥様がいるから簡単に叶えられる願いじゃないんだろう。 それは分かるんだけどさ、ただ、弥生さんが泣き出しそうなのが辛いんだよなぁ。
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