第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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俯き気味にせっせとヨーグルトを口に運ぶ弥生さんは、今は泣いてはいないけど、たぶんいつか、早ければ今夜遅く、ジャッキーさんの重なる否定の言葉を思い出して泣いてしまうんじゃないだろうか。 やだなぁ。 せっかくさっき、僕の作ったシチューを美味しい美味しいと食べて笑ってくれてたのに。 「たとえば……」 なんでこんな事を言い出したのか、自分でもよく分からなかった。 「たとえば、弥生さんと僕が付き合う事になったら、ジャッキーさんはどうしますか?」 はぁぁ!? 弥生さんが絶叫している。 そりゃそうか。 ジャッキーさんは黙って僕をジッと見ている。 こっちもそりゃそうか。 「どうします?」 大事なコトなのでもう一度聞いてみた。 「弥生が幸せになるなら構わないよ。祝福する」 ちっとも祝福する顔じゃないジャッキーさんが、そう答えてくれた。 僕は息を吸い、自分でも驚くくらい静かな声で言ったんだ。 「弥生さんって、可愛い人ですよね。前回、埼玉の現場でご一緒した時は”頼れる姐御”って感じだったけど、今日の弥生さんはすごく可愛らしくて、年上なのに元気な笑顔が妹みたいで、僕の作ったゴハンを美味しいって食べてくれたんです。嬉しかった。それから……ビールをね、3本飲んでました。ほんのり頬が赤くなって、トロンとした目にドキッとしました。危なっかしいなぁって心配になりました。僕じゃなかったら下手すりゃ押し倒されてますよ。それくらい色っぽかった」 黙ったままのジャッキーさんは、チラリと弥生さんを見たけど、すぐに僕に視線を戻した。 表情は固い。 「付き合う事になったら……とは言いましたが、弥生さんはたぶん僕のコトは好きになりません。ジャッキーさんのコトが大好きだから」 おかしな事を言っている、といった顔のジャッキーさんは、”僕のコトは好きにならない”と聞いた時、少しだけ口角が上がった気がした。 「だけどね、それでも僕と一緒にいる可能性はあると思うんです。なんでかって? そろそろ弥生さんに限界が来るからです。弥生さん、頑張ってますよね。ずっと一人の男性を想い続けてる。でも、もう酸欠気味です。振り向いてもらえず、結婚も愛されるコトも諦めて、せめて子供がほしいと願っても、やっぱりそれは難しくて。弥生さんはジャッキーさんしか好きじゃない。でも、あと少し頑張って、それでも全部駄目でしたってなった時、誰かが傍にいないと、この人壊れちゃいます。その時、僕に何が出来るだろうって考えると、弥生さんの傍にいて、抱きしめる事なんじゃないかと思うんです」 表情の読めないジャッキーさんは、黙ったまま僕をジッと見たままだ。 弥生さんはポカンとした顔でスプーンを握ったまま、やっぱり僕を見ている。 重くもないが軽くもない空気の中、ジャッキーさんがようやく口を開いた。 「ありがたい話だね、エイミーさんは弥生を心配してくれてる」 微かな棘を含んだ声だった。
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