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「マジョリカを呼ぶ……? ふざけた事を言うなよ、……これはエイミーさんの入れ知恵なのか?」
淡々とはしているが口調は強い。
ジャッキーさんが怒ってる。
ピリついた空気が肌をヒリヒリさせる。
すごいな……僕が怒ったって、こんな風に空気を変える事は出来ないよ。
「違う、それはアタシが、」
言いかけた弥生さんの言葉を大きな声で遮った。
「そうです、僕です」
咄嗟の嘘だった。
口寄せは僕が言い出した事ではないけれど、矛先を逸らしたかった。
このヒリつく怒りを弥生さんに向けさせたくない、僕のせいにしたかったんだ。
部屋の中がシンと静まり、ジャッキーさんは僕と弥生さんを交互に見る。
やがて大きな身体は完全に僕に向いた。
目は捕食者のように鋭く光り、あからさまな怒りの色を見せている。
「はぁ……言い出したのは弥生か。エイミーさんはどうして嘘を? もしかして弥生を庇っているつもりかい? ありがたい話だね、心配してるんだ。それなら二人、本当に付き合ったらいい。いや、結婚したいんだっけ? 祝福するよ」
人ってこんなに冷たい顔が出来るのか、というのを見せ付けられた気がした。
水渦さんと3人で打ち上げをした時に見せた優しい顔、一緒にゲームをして大笑いした顔、同じ人とは思えない。
堪えきれなくなったのか、弥生さんが泣き出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい、」と顔を覆って震えてる。
____オイ、ふざけんなよ、誠ぉ!!
____クソ水渦とは絶ぇぇぇぇっ対に組まない!!
____先代大好き! 芋饅頭買ってきたよ!!
____エイミーちゃん、ありがとう。
明るくてキレやすくて懐こくて、僕にキスをしようとした弥生さん。
愛されて然りの優しい女性が泣いている。
震えながら謝っている。
「妻を、マジョリカを巻き込まないでくれ。妻は純粋なんだ。自分をずっと待っていてくれてる。いらない心配をかけたくない」
抑揚のない声でそう言うと、立ち上がり部屋を出ていこうとする。
このまま帰るつもりなのだろうか。
泣いて震えて許しを請う弥生さんに声を掛けるでもなく、僕がどうして弥生さんを庇ったのかちゃんと聞こうともせず。
ねぇ、ジャッキーさん。
弥生さんだって純粋ですよ?
アナタをずっと待ってますよ?
いつだって不安ですよ?
それなのに。
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