第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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「…………本当に忘れられるのか? おまえに耐えられるのか? 耐えられなくなったら好きでもない男と付き合うんじゃないのか?」 「ん……そんなコトしないよ、大丈夫。それに……アタシのこれからは、ジャッキーには関係のない話だ」 「…………関係なくはないだろう、」 「……どうして?」 吹っ切れたのか、諦めたのか。 それとも、奥様を庇い守ろうとするジャッキーさんに絶望したのか。 弥生さんは静かに淡々と”もう会わない”と繰り返し、それに何故か難色を示すジャッキーさんの、この二人の会話をただ黙って聞いているしかなかった。 「おまえが傷付く可能性はすべて自分が潰すと言っただろう? “一生好きでいろ”と言った責任もある。自分から離れて淋しくなったら、好きでもない男と付き合う? それとも寝るだけを繰り返す? そんなの放っておけない」 「“一生好き”は、アンタが責任感じる事じゃないよ。……大丈夫、心配しすぎだ。アタシだって良い大人だもの。淋しいからってバカな真似はしない」 失礼過ぎる物言いに、怒る事なく正論で返す弥生さん。 ジャッキーさんは、そんな弥生さんをジッと見る。 その目は明らかに苛立っていて、そのせいなのか、ガザッ! と音をさせ紙袋を床に投げると、数歩の距離を詰め、乱暴に弥生さんの手首を掴んだ。 見ていて心臓が早くなる、ジャッキーさんの様子がおかしい。 「良い大人? 誰が? 弥生が? 笑わせるね。去年の事はもう忘れてしまった? 部屋に男連れ込んで、隙だらけで襲われかけただろう?」 「ッ! 違うよ! 連れ込んだんじゃない、押しかけられたんだ!」 「どうだか。今日だってエイミーさんを部屋に連れ込んだじゃないか。学べよ、おまえビールを何本飲んだ? 隙だらけだよ。挙げ句、自分の目の前でキスまでしようとしたじゃないか、」 「だから……エイミーちゃんは女友達みたいなものだよ。そんなのジャッキーだってわかってるだろ? キスは……あれはジャッキーが止めてくれるって分かってたから、アンタがアタシを拒んでばっかりで……それが悲しかった……気を引きたかっ、」 「言い訳するな。二人で食事をしててもおまえの電話は鳴りっぱなしだ。全部男か? 今日みたいに誰かと会ってるんじゃないのか? どうなんだよっ!!」 「ジャッキ……おかしいよ、そんな事するはずないだろう? 一緒の時に電話が多い日があったかもしれないけどたまたまだ、いつもじゃない。それに、出なかっただろ? アンタといるのに他の電話になんか出ない。それとこれとは別だ、そんな事しないよ、するはずな、」 「おまえが言ったんだろう!! 昔っ! ”淋しくなったら仲間の誰かと付き合えばいい”って!! 自分はそれがずっと心配で、ああ……それとも陰でワルイコトをしてたのか? 自分を好きだと言ったクセに! 子供が欲しいと言ったクセに! そうなんだろ! 知らなかった、おまえは尻軽だったんだな!」
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