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「弥生、」
力ない声が名前を呼ぶ。
アタシを見るジャッキーは、まるで死者みたいな顔をして……なんだよ、なんでアンタが泣きそうな顔してんだよ。
泣きたいのはコッチだよ。
「…………さっきは怒鳴ってごめんな」
ああ……いつものジャッキーに戻ってくれた。
声が、話し方が、優しくなった。
「ううん、いいんだ。……ただ、少し怖かった。……怒鳴られたからじゃないよ。声の大きいヤツはまわりにいっぱいいる。さっきのアンタ、知らない人みたいだったんだ。口汚くて、攻撃的で、言ってる事がおかしくて、あんなに強く手首を掴んで……アンタとは長い付き合いなのに、あんな風になるの初めてだったから、それが怖かった、」
責めるつもりで言ったんじゃない。
ただ、もうあんなジャッキーは見たくなくて、あんなふうに扱われるのは悲しいから、だから、
「ごめん、怖かったよな。あんな風に怒鳴るつもりじゃなかった。本当は分かってたんだ、エイミーさんを部屋に連れ込んだなんて言い掛かりだよ。おまえを尻軽だとも思ってないし、ああ……でも心配だった。去年の事があって神経質になっていた。おまえが泣くのが絶対に嫌だったんだ。……一番自分が悲しませてるのにな、」
「心配してくれるのはありがたいと思ってる。だけど……そこまで分かってて……なんであんなに酷い事を言ったの? アタシ、すごく悲しかったよ。ずっとアンタしか好きじゃないのに」
「…………ごめん、どうかしてたよ……動揺してしまったんだ。弥生に、もう逢わないって言われて、仕事も辞める、部屋も引き払う、弥生のこれからは自分に無関係だと言われて、弥生は本気でいなくなる気なんだと……冷静でいられなくなった、」
一気に年を取ったみたいな顔をして、良い年したオジサンが今にも泣き出しそうな顔をしている。
ジャッキーは何を言っているの?
だってアンタはアタシの事なんか好きじゃないだろう?
そんな言い方……まるで本当に。
ジャッキーは冷めたお茶を一気に飲み干した。
そして大きな身体ごとアタシに向けて……言ったんだ。
「長年ついてきた嘘が……経年劣化してしまったんだ。ずっと隠してきたのに、ずっと隠し続けるつもりでいたのに。出来なかった……気持ちを口にしてしまった、」
嘘が……経年劣化……?
アタシを好きじゃないって言ってたのは、嘘だったったの?
さっきジャッキーが言った事……あれは聞き間違いじゃなかったんだ。
本当にアタシの事が好き……なんだ。
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