第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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「…………いつから?」 アタシがアンタを好きになってから七年だ。 その間、何度も何度も好きだといったのに。 別にマジョリカと別れてくれなんて言わなかっただろう? 子供が欲しいとは言ってしまったけど、だからって責任取ってくれとも、一緒に育ててくれとも言わなかったじゃないか。 好きでいてくれたなら、一言くらい言ってくれたって良かったじゃないか、 「ねぇ……いつから? ねぇ、答えてよ……教えてよ……いつから? ねぇってば、いつから? 教えてよ!」 腹が立って涙が溢れて、でも嬉しくて、気持ちはグチャグチャで、でもやっぱり嬉しくて嬉しくて、だから知りたくてたまらなかった。 いつからアタシを好きなの? アンタに拒まれ泣いていた、過去のアタシを救ってよ。 口を閉じたまま、困ったようにアタシを見るジャッキーが憎らしくて、思いっきり胸を叩いてやった。 アタシの力じゃ痛くもないだろうけど、それでもなにかしてやりたくて、バカみたいに叩き続けたんだ。 ジャッキーはされるがままで、目が真っ赤になっていて、それで、やっと、口を開いてくれたんだ。 「ずっと前からだよ」 「…………ずっと前だけじゃ分からないよ、」 涙が全然とまってくれない。 知りたくて、もどかしくてどうにかなってしまいそう。 「……ん、もう叩かないで。弥生の手が痛くなる」 「手なんかどうだっていい」 「駄目だよ、」 そう言って、いつか遠い昔のように、大きな片手がアタシの両手を封じてしまった。  そして、 「…………五年前だよ」 少し悲し気な優しい顔で、そう答えてくれた。 「五年前……? 訓練の頃?」 「ああ、そうだ。訓練が終わる三日前……おまえは突然自分にキスをしてきただろう? 追い詰められた顔をして、弥生自身を人質にして(・・・・・・・・・・)、泣きながら、震えながら、何度も何度も」 あの夜、初めてジャッキーにマジョリカがいる事を知ったんだ。 嫉妬と悲しみと、どうしてもっと早く言ってくれなかったんだって、自棄になったアタシはジャッキーに無理やりキスをした。 「自分の知っている弥生じゃなかった。泣きながらキスをしたかと思えば黙り込み、死人のような顔をする。本当に死んでしまうんじゃないかと心配で、自分の部屋に寝かせたんだ。その時初めて気持ちを知った。もっと昔に“彼女になりたい”と言われたけど、時間も経ってとっくに切り替えてると思ってた。なのに……自分を好きと言うたび泣いてしまうし、かと思うと強がって酷いコトバを並べ立てる。不安定な子だと思ったよ。扱いを間違えれば弥生自身をとことん傷付けるタイプだ。注意して見てやる必要がある。 そう……なんてメンドクサイ女だと思ったよ」 ジャッキーはアタシの両手を掴んだまま、困ったように笑う。 少し息を吐き、そして吸い込み、優しい顔のまま話を続けてくれたんだ。 「メンドクサイしちっとも強くない。傷付きやすくて不安定で頼りないのに、気持ちを隠して毎日笑って、食事を作って、手の水膨れが痛いのに霊刀振って……無理しなくていいと言えば、自分の為だけじゃない、会社や先代の為だと一喝したよな。バカな自分はそれをそのまま信じてたんだ。なのに……あの夜、気持ちを知ってしまった。自分なんかを想い続けて、見返りもないのに尽くしてくれて、身を削って、弥生より自分を優先して……どうしてそこまで出来るんだよって、どうしてそこまでしてくれるんだよって、そう思ったら……自分には妻がいるのに……それなのに……愛しいと思わずにはいられなかったんだ」 そか……あの時だったんだ。
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