第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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マジョリカの話はね、前からしょっちゅう聞いていたんだ。 聞けばヤキモチを焼くというのに、聞かずにはいられなかった。 ジャッキーがそこまで愛するマジョリカって、どんな子なんだろう? 今まで沢山は答えてくれなかったけど、少ない情報をかき集めて、アタシと何が違うんだろう、マジョリカみたいになればアタシも愛されるのかなって、そんな無駄な事ばかり考えてた。 黄泉の国の滞在時間はまる一日だけで、奇跡的に蘇生したジャッキーは、すぐに現世に還されたんだ。 そんな短い時間しかなかったのに、慌ただしい一日だったのに、ジャッキーとマジョリカは恋に落ちたの。 マジョリカはさ、精神的にボロボロだったジャッキーを、同情じゃなく、憐れみじゃなく、興味本位でもなく、対等に扱って、 『何かをしてあげる(・・・)』じゃなく、『一緒に楽しもう』って。 純粋な瞳で、優しい笑顔で、宝石のような美しさで、なのに気取らない。 殺されたジャッキーの為に泣いて、傷を解ろうとしてくれて、現世で何年も地獄の底を這っていたのに、どうやっても立ち直れない、そう諦めていたのに…… マジョリカはたったの一日でジャッキーを救ってしまった。 恋に落ち、キスして抱き合って、ジャッキーに再び生きる力と自信を与え、深い愛を分かち合い、足を失った事も、スタントマンでなくなった事も、家族のお荷物だった事も、あらゆる苦しみから解放した。 マジョリカがいなかったら、アタシが好きになったジャッキーはいない。 マジョリカとの事。 初めて全部を聞いた。 もう敵わないって思ったよ。 庇って守って救ってくれた、アタシの優しくて大好きなジャッキーは、マジョリカがいたから存在するんだもの。 あの子の優しさが、思いやりが、愛情が、回り回ってアタシまで救ってくれたんだよね。 ようやく分かった。 ジャッキーがマジョリカを、八年も逢えないマジョリカを、深く深く愛し続ける理由がさ。 涙がね、止まらなかった。 めちゃくちゃ泣いて、泣いて泣いて。 おかしな話なんだけど、泣き終わった頃には……アタシはマジョリカの事が好きになっていた。 事故の事、引きこもりだった頃の事、マジョリカとの事。 今まで、ここまでちゃんと聞いた事がなくて、モヤモヤ色々想像しては、嫉妬したり泣いたりしてたんだ。 勝手に霊視(のぞく)なんて出来ないしな。 だからね、ぜんぶを聞いて、なんだか逆にスッキリしたの。 元から”奪う”なんては思ってなかったけど、それにしたってアタシの入り込む余地はない。 現実的な事を言えば、気持ちが通じ合ったからって、じゃあどうするのって話だ。 マジョリカにバレないように付き合うの? あんなに優しい子を騙すの? 嘘つくの? 傷付けるの? そんなの嫌だよ。 後ろめたい気持ちを抱えたまま一緒にいたって上手くいきっこない。 ジャッキーがアタシを好きになってくれた、それだけで充分幸せだ。 だってアタシにとっては奇跡みたいなものだもの。 この幸せが胸にあれば、この先は一人でもやっていける。 マジョリカを傷付けたくない、悲しませたくもない、ジャッキーを嘘吐きにしたくない、アイツを救ってくれた人だもの、アタシにとっても大事な人だ。 五年前にキスだけはしちゃったけど一線は越えてない。 今ならギリギリ引き返せる。 だから辛いけど、まだ何も始まってもいないけど、このままサヨナラしようって言ったんだ。
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