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中に入ると外観とは打って変わって爽やかだった。
白い壁に光取りのすりガラスが等間隔ではめ込まれ、柔らかく差し込む光がなんとも明るく心地よい。
さり気なく花なんかも飾ってあって、どこをどう見たって普通の会社だ。
僕は人がいないのを良い事に、辺りをキョロキョロと見回しながら奥へと進み、丁字の突き当りで立ち止まった。
左を見れば給湯室、右を見れば閉ざされたドア。
ドアの横には壁掛けタイプのビジネスホンが付けてあり、すぐそばには“御用の方は内線ボタンを押してください”というゴシック体の張り紙が貼ってあった。
手続きにどこを訪ねたらいいかわからない僕は、とりあえず受話器をあげて内線ボタンをプッシュした。
プル、ガチャッ!
出た!
早っ!
1秒程の呼出音で瞬時に応答されて焦ったが、それでも僕は精一杯の余所行きの声を出し、
「お忙しいところを恐れ入ります。私、本日10時にお約束」
させて頂いた……と続けようとした僕を、聞き覚えのある弾んだ声が遮った。
『岡村英海君でしょ? よく来たね! 待ってたよ! ドア開いてるから! 入ってきて!』
「えっ、あ、はい!」
今の声は昨日の先代に間違いない。
まったくせっかちだ、話し終わる前に“入ってきて!”だもの。
って、あれ……? ちょっと待てよ?
なんでフルネームを知っているんだろう?
昨日は特に名乗らなかったと思うけど。
もしかしてハローワークで僕の書類を見たのかな?
それともこれが霊視というやつなのか……?
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