第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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アタシがそう言った事にジャッキーは何も答えなかった。 暫く黙って、考え込んで、 ____もう少しだけ話したい事がある、弥生の事だ。 そう言って、アタシの事を話し始めたんだ。 ジャッキーが現世に戻って一ヶ月後。 アイツはわざわざ自分を襲った悪霊達がいる廃ビルに行ったって……エイミーちゃんも聞いたか? アイツ、格好つけた事言ってただろ。 ____怖かったけど、自分以外の人も被害に遭うかもしれない、 ____それが心配で様子を見に行った、 あれは半分本当で半分嘘だ。 マジョリカと逢えなくて、辛くて淋しくてたまらなかったジャッキーは、あわよくば悪霊達に、もう一度殺されよう(・・・・・・・・・)と思って廃ビルに行ったんだ。 家族には悪いけど、マジョリカに逢いたくて仕方がない。 “現世で頑張ってくる”と言って戻ってきたのに、淋しさに負けて、無職のまま、何もしないまま黄泉に逝ったのでは呆れられる。 だから……自殺では合わせる顔がないけど、他殺なら堂々と黄泉に逝けるってさ。 そうじゃなきゃ、恐怖体験をした廃ビルなんてわざわざ行かないよ。 あの頃のジャッキーは霊媒師でもエクソシストでもない。 ただの無職(ドフリー)だったんだから。 そこに訳の分からない酔っぱらいのアタシがやって来て、アテにしていた悪霊達を瞬殺されて、アイツの都合もガン無視で飲みに連れられ、強引に霊媒師にさせられて、これからどうなるんだろうって身震いしたらしい。 入社しててからがまた大変だった。 研修はハードだわ、OJTではロクな説明もないまま悪霊と戦わせるわ、研修が終わっても現場は常に一緒のツーマンセルで、最初こそ強かったアタシは戦闘中に凡ミス連発するわ、危なっかしくて見てられなくて庇って守って、毎日が嵐のようだったって言われたよ。 あぁ、言っとくけど、ツーマンセルの相手がジャッキーじゃなければミスはしない。 しょっちゅう見惚れてたからミスったんだ。 忙しすぎて、覚える事が多過ぎて、嵐の毎日を過ごすうちに、淋しい辛い、死にたいと思う日が減っていく。 アタシといると振り回されて、嫌でも大雑把になる、些細な事などかまってられなくなる、雑談はくだらなすぎて、無理して話してる訳じゃないのに、いつまでたっても話が尽きない。 延々喋って笑いすぎて、腹筋が痛くなったって言ってたよ。 ____弥生は妹のような、男友達のような、一緒にいるとバカになって笑って笑って、笑った分だけ元気になれて、休みの日には死にたくなるけど、会社で会えたらまた笑う。だからとりあえず、今日だけは生きてみようと思えたんだ。 現世もそんなに悪くない……そう思い始めた頃、アタシがジャッキーに告白した、カノジョになりたいって。 ジャッキーは困惑した。 一緒にいるのは楽しいけど、そこに恋愛感情はない。 妹だと、男友達だと思ってた。 そもそも言ってないだけで妻がいる、付き合えるはずがない。 だから当然断った、けど、その時のアタシ、死者みたいな顔をしてたんだって。 いつも明るく笑って怒ってふざけてるのが別人みたいに。 責任を感じたって。 10も年下のアタシに勘違いをさせてしまった。 早く自分を忘れられるようにしてあげなくちゃいけない。 だからツーマンセルで組む事にNGを出し、会社で会っても避けるようにした。 これでいい、これが弥生の為なんだと、アタシとの接点をどんどん減らし、しまいにはゼロにして、そして。 ジャッキーの死にたい病が再発した。
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