第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

89/222
前へ
/2550ページ
次へ
余程の事が無い限り、毎晩欠かさずお喋りするマジョリカに、弱音を吐く事は出来なかったって言っていた。 ジャッキーの方が年が上だし、ただの冴えないオジサンを心から格好良いと言ってくれる、純粋に無邪気に甘えてくれるマジョリカにガッカリされたくなかった、現世で元気に頑張ってると思わせておきたかった。 毎日死にたいと考えてるなんて知られたくなくて、好きな子に見栄を張りたかった。 自分の話をすれば愚痴を言ってしまうかもしれない、だからマジョリカの話ばかりを聞いていたそうだよ。 告白から暫く経って、霊媒師ジャッキーとしての進退が危うくなって、あの三カ月の訓練を乗り越えて、どうにか霊媒師としての首が繋がった。 それから……前にエイミーちゃんに話した通り、アタシとジャッキーの友達みたいな付き合いが始まったの。 たまにしか逢わなかったけど、それでも一緒にいればたくさん笑って、そしてジャッキーの死にたい病が治まったんだ。 引きこもりだった頃、どう生きていいか分からなくて、地獄の底を這いまわっていたジャッキーは、黄泉の国でマジョリカに救われた。 そのマジョリカと現世では逢えなくて、またいつか逢えると分かっていても、それまでをどう生きて良いか分からなくなった。 死ぬ事ばかり考えて、そればかりに気を取られて他の事に気持ちが入らない。 せっかく生き返ったのに嫌々生きている、朝起きたら死にたくなる、夜眠る時も死にたくなる、雨が降っても死にたくなる、ふとした瞬間死にたくなる。 そうもがいていた時にアタシと出会ったんだ。 ____現世では弥生に救われた、 ____弥生と話して沢山笑うと今日だけは生きてみようと思えた、 ____おまえがいなければ死ぬ事だけで頭がいっぱいだ、 ____せっかく命があるというのに時間を潰すだけの生き方だ、 ____引きこもっていた頃も辛かったけど、 ____仕事はあるけど常にある希死念慮も辛くてさ、 ____ごめんな、情けないよな、自分も本当は弱いんだ、 ____笑って良いよ、 アタシはね、とてもじゃないけど笑えなかった。 いくら友達がいてもさ、会社の連中が良い奴でもさ、頼って良いのはここまでだっていう境界線があるだろう? たまにならまだしも、頻繫に頼ってたんじゃ迷惑だ。 いつかそのうち嫌われる、しんどいって思われる。 アタシ達は辛い時、はっきり口にはしなかったけど依存し合っていたんだ。 ジャッキーはアタシに依存して、アタシもジャッキーに依存した。 それが迷惑じゃなくて、しんどくも感じなかったのは、お互いを好きになってたからだ。 愛情は荷物を軽くする、たとえ間違った愛情でもだ。 なのにさ、笑えるわけないじゃない。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加