第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ 「あーあ、七年の恋が終わっちゃったぁ」 そう言って笑う弥生さんの顔は、ちっとも恋は終わっちゃなくて、いまだ強く想っているのがバレバレだ。 だけど弥生さんとジャッキーさんが決めた事なんだもの、僕がどうこう口出すべきじゃない。 「それで、今回の事と一カ月の休みって何か関係……あるよね。もしかして傷心旅行的な? いいと思うよ。羽伸ばして、思いっきり楽しんでさ」 「アリガト……ん、少しゆっくりして、これからの事を考えたい。正直、今のアタシはツカエナイ。現場に行ってもまともに働ける気がしないんだ。ツーマンセルでも組もうものなら確実に足を引っ張る。それに引っ越しもしたいんだ。今のアパートじゃ、ばったりジャッキーに会っちゃいそうだもの」 「あー、近いもんねぇ。引っ越すなら僕も手伝うから声かけてよ」 「……天使! エイミーちゃん、マジ天使! ついでにシチューも作って!」 「あははは、いいよ。今度は僕の家においでよ。ウチ、ホームベーカリーあるからパンも焼いてあげる」 「ホントか! やったー! エイミーちゃん大好きっ!」 半べそだった先輩霊媒師は、シチューとパンで大喜びだ。 そんなんで笑ってくれるなら、毎日だって作ってあげるよ。 ドンドン ガチャッ! 乱暴なノックの音と同時にドアが開いた。 僕と弥生さんで振り向くと……アウチ……嫌な予感。 そこには水渦(みうず)さんが立っていた。 そういや交通費精算と、次の現場の(スーパーハードモードらしい)打ち合わせで出社するって、予定表に記してあった。 大丈夫かなぁ……弥生さんと水渦(みうず)さんって、めちゃくちゃ仲悪いんだよなぁ。 また喧嘩にならなきゃいいけど。 最初に声を発したのは水渦(みうず)さんだった。 「お疲れ様です。大倉さん、社長が呼んでいます。話があるそうで事務所に来てほしいそうです」 うん……ピリピリ感は否めないけど一応は礼儀正しいぞ。 水渦(みうず)さんはキレさえしなければ、硬すぎるくらい言葉遣いは丁寧だ。 これであとは弥生さんが素直に事務所に降りてくれれば、喧嘩にはならないだろう……と思ってたのに。 「なんでクソ水渦(みうず)寄越すんだ、誠も内線すりゃあいいのによ」 ボソリと悪態をつく弥生さん。 ちょ、そんな言い方しなくてもいいじゃない。 弥生さんの地声はデカイのだ。 当然聞こえてしまった水渦(みうず)さんは、めり込むほどのシワを眉間に寄せた。 「随分ですね。せっかく人が呼びに来たというのに。今、社内のビジネスホンは一部故障で内線が使えません。出社して周知文を読んでいれば分かる事です。ご存じないという事は、また読んでいなかったのでしょうか? やるべき事もせずに休みだけは取得する……良いご身分です」 はぁ、と大袈裟に溜息をつく水渦(みうず)さんだが、弥生さんを見る眼は鋭く光っていた。 ちょ、だから、落ち着きましょう? ね?  弥生さんも今は心が傷付いているんだ。 こんな時まで喧嘩を買ったりはしないよね? 「……あぁ? 今なんて言った? クソ水渦(みうず)がアタシに意見してんじゃねぇよ。ぶっ飛ばすぞ?」 ハイ、買った! 的な。 あーあーあーだーかーらー、 ”コンニチハ!”とか”今日は良い天気ですね!”と同じ感覚で”ぶっ飛ばす”とか言わないでくださいって。 ちょ……どうしよう。 この二人を上手く扱えるのは先代とジャッキーさんしかいないのに。 僕一人じゃどうにもならないよ。
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