第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

92/222
前へ
/2550ページ
次へ
「ちょ、二人とも落ち着いて? ね? 仲良く! みんな仲良く!」 ダメ元で声を掛けてみる。 てか最近、僕の前で喧嘩する人多すぎ! もっと平和にいきましょうよ。 なんなら美味しいハーブティーを淹れてあげます、と思っていたのに。 人の嫌がる事をさせたら世界一な水渦(みうず)さんが、弥生さんの傷を的確に突いた。 「ヒステリーは迷惑です。はぁ……志村さんを見る目が変わりました。配偶者がいながら、なにもこんな下品な女に手を出さなくても良いようなものを、」 ……え? 今、なんて言った? バッとすごい勢いで弥生さんが僕を見る。 見られた僕は、高速で首を振り、決してジャッキーさんとの事を話していないと否定した。 「なぁ、クソ水渦(みうず)……アタシを勝手に霊視(のぞいた)のか? だが、アイツとの事はウォールをかけている。誰も霊視(のぞけない)はずなんだけどな、」 空気が痛い、肌がヒリヒリする。 ジャッキーさんが怒った時と同じ空気だ。 二人はこんなところまでよく似ている。 てか、ウォールってなに? 壁? ジャッキーさんとの事は覗けないようにブロックしてるの? 「ウォールの印、ですか。大倉さんがよく結べましたね。頭が悪くて印は何一つ結べないかと思っていました。もっとも、ウォールは工程も少なく、赤子でも結べる印ですが。勘違いしないでください。霊視したのではありません。岡村さんと話してる声が廊下まで聞こえてきたのです。深刻そうな雰囲気で、部屋に入れませんでした」 シレっとそう答えた水渦(みうず)さんだったが、いや、研修室のドア閉まってたし、廊下まで話は聞こえないと思うんだけど。 「水渦(みうず)さん、ちなみにどの辺にいたの? 廊下にいて本当に話聞こえた?」 と聞いてみれば、 「た ま た ま 、増幅の印で聴力を強化していたので、聞こえてしまいました」 だそうだ。 絶対嘘だ、盗み聞きする為に聴力アップさせたんだ。 「下品なのはどっちだよ。アタシなら人の話を盗み聞きなんてしない。勝手にそんな事をして恥ずかしくないのかよ」 「別に。聞かれて困る事を会社で話す方が間違っています。そういった判断もつきませんか? ああ……申し訳ありません。印も覚えられない頭です、つくはずがありませんでした」 あぁ? 酒焼けのハスキーボイスが短く疑問を投げかけた半瞬後。 弥生さんの手には紫色の霊刀が握られていた。 ややややや、そんな物騒なモノはしまおうよ! …… 無言の圧を撒き散らす水渦(みうず)さんも、利き手の五指に蒼い電気(エネルギー)をチャージしている。 ややややや、ナイナイ! そういうのナイナイして! しまって! 両者睨み合いが続く緊迫した中、水渦(みうず)さんが言った。 「志村さんの奥様、でしょうか。以前霊視した時に少しだけ視た事があります」 「最低だな……ジャッキーの過去まで霊視(みた)のかよ」 弥生さんの眼に険しさが増す。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加