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「少しだけです。そのまま霊視も良かったのですが、二人の雰囲気がおかしくて即閉じました。ですが奥様の容姿はよく覚えています。美しい女性でした。大倉さんなど足元にも及ばないくらいに」
そういや打ち上げの時に言ってたな。
ジャッキーさんを霊視しかけて、途中でやめたって。
”夜の大草原に美女と二人……”とかなんとか言っていた。
その美女が奥様なんだ。
「……おまえはマジョリカを視たんだな、」
水渦さんに負けず劣らず、眉間に深くシワを寄せる弥生さんは、怒りを色濃く見せていた。
「大倉さんは視た事がないのですか? なぜ? 気になるなら視たらいいじゃないですか。一体なんの為の霊力です?」
心底不思議そうな顔をして疑問を投げる。
「アタシは視ない、誰かを霊視して良いのは仕事で必要な時だけだ。興味本位で本人の許可も取らずに霊視するのは間違ってる」
普通はそうだよねぇ……なのに。
「ご立派ですこと。気になって仕方がないのに痩せ我慢ですか。分かりません……大倉さんは志村さんが好きなのですよね? ですが奥様がいて思うようにならないのでしょう? だったら奥様を滅してしまえばいいじゃないですか。ただの死者なのだから」
瞬間的に空気が凍った。
人としてあるまじき発言だ。
これは……庇いきれないよ。
「滅して……? おまえ……ナニ言ってるんだ……? 自分が何言ってるのか解ってるのか……? オイ……ふざけるなよ……!」
前に比べればだいぶマシになった水渦さんだが、いまだこういう事を言ってしまう。
弥生さんの怒りはもうすぐ頂点に達しそうだった。
「何って解りませんか? ああ、それとも。大倉さんが滅してしまっては、後から志村さんにバレた時に困るから躊躇してると。では私が滅しましょうか? 依頼してくださればすぐにでも、」
「黙れっ!! なんでそういう考えになるんだよっ!! マジョリカはジャッキーにとって大事な奥さんなんだよっ!! 死者だから滅していいとかオカシイだろっ!! おまえアタマ大丈夫か……?」
あまりにもな発言に弥生さんの怒りは頂点を越え、越えすぎて萎えた。
「……話にならないわ。もういい、誠んとこ行ってくる」
出現させた霊刀を使う事なく消滅させた弥生さんは、そのまま研修室を出て行った。
残された僕は、同じく部屋にとどまる水渦さんに声を掛けた。
「さっきのは……さすがに駄目ですよ」
「……奥様を滅する、というくだりでしょうか?」
キョトンとした顔で僕を見る水渦さん。
それ以外に何があるってのよ。
「そうです。新人の僕が生意気を承知で言わせてもらいます。ねぇ、水渦さん。僕らは霊媒師でしょう? 死者を視て、声を聴いて、命はなくても確かにそこにいるでしょう? 僕らと同じ人なんですよ。簡単に滅して良いはずがない。水渦さんにとって、どうでもいい死者でも、誰かにとってはとても大事な死者かもしれないんだ」
打っても響かない、といった表情だ。
僕の話している事が理解出来ないのか、それとも解っていてとぼけているのか判断がつかない。
ジャッキーさんと三人で打ち上げをした時、ムキになってゲームをして、勝てば嬉しそうに笑っていたのに。
ジャッキーさんの作ってくれたゴハンをみんなで笑いながら食べたのに。
決して根っからの悪人じゃないはずなんだ。
なのに、どうしてああいう事を言ってしまうのだろう。
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