第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ コンコン ノックの音がした。 今度は静かな優しい音だ。 誰だ? 出て行った水渦(みうず)さんが戻ってきたのか、それとも弥生さんか? カチャリとこれまた静かにドアが開くと……あ、ユリちゃんだ。 ああ……癒されるなぁ。 サラサラの長い髪に、お母さんの形見である色褪せた青いリボンをカチューシャのように着けている。 白いブラウスにサンドベージュのロングスカートが爽やかで、さっきまで激しい系の女性二人と接していたから、尚更癒されてしまう。 「社長のおつかいできました。あのね、岡村さんも事務所(した)に来てほしいって」 「さっきは弥生さんが呼ばれてたよね? 僕も?」 「うん、そうみたい。弥生さんはまだ社長と話してる。なんかね……弥生さん、すごく動揺というか……様子がヘンだったんだ」 「動揺……? なんだろう、何かあったのかな。やっぱり有給取らせません! とか。いや、それなら僕は呼ばれないか。なんだろ……」 キャッキャウフフとユリちゃんと和やかに話しながら事務所に入ると、満面の笑みとピカピカに光る頭で社長が迎えてくれた。 「おぅ、エイミー! 自主勉中に(ワリ)いな! どうだ? 印は覚えたか?」 「はい、前に水渦(みうず)さんに動画を撮らせてもらった印の各種、工程の全部を覚えました! 一応、霊反応も出るのでダイジョウブかなぁって思うけど、実践がまだだから、機会があれば使ってみます!」 そうなのだ。 水渦(みうず)さんには数種類の印を動画で撮らせてもらった。 最初は手指が固くて中々うまく結べなかった印も、さすがに毎日練習していれば形になって、元々地道な暗記が得意な僕は、オールコンプリートで覚えたのだ!(ひゃっほー!) 「そうかそうか。しかしエライなエイミーは。一人で研修させてもサボらねぇもんなぁ。俺なら間違いなくサボる、もしくは寝るな」 さすがは期待の新人、なんて腕組んで頷いてるけど、いや、アンタこの会社の社長でしょうが。 大威張りでナニ言っちゃってんの。 僕のツッコミにテヘっと笑ったツルピカ頭の向こう、弥生さんが難しい顔で机に座っていた。 そう、椅子ではなく、机に座わり、食い入るように社内用タブレットを見つめている。 どうしたんだ……? 「でよ、エイミーを呼んだのは仕事の依頼だ。つか、正確には、弥生に来た仕事のサポート。要はツーマンセルを組んでもらう」 社長はそう言って、弥生さんを指さした。 「ツーマンセル? いいんですか? だって弥生さんって長期休暇に入るんですよね? なのに仕事入れちゃうの?」 さっき弥生さんは言っていた。 ____正直、今のアタシはツカエナイ、 ____現場に行ってもまともに働ける気がしないんだ、 ____ツーマンセルでも組もうものなら確実に足を引っ張る、 今の弥生さんが依頼を受けるとは思えない。 というか、受けられないだろう。 だけど、 「悪いな、エイミーちゃん。今のアタシはヘタレもいいトコだ。だから助けてくれないか?」 それって……依頼を受けるってコト? 僕で良ければ組むのは全然かまわない。 弥生さんと一緒なら勉強にもなる。 「そりゃあ、もちろん。だけど良いの? だってお休みは?」 ん、と短く答えた弥生さんは、手にしていたタブレットを僕に寄越した。 すでに画面は開いてあった。 受けた依頼は、ユリちゃんが文書に起こして”依頼フォルダ”に入れておいてくれる。 僕ら霊媒師はそれを見て詳細を知る。 僕はその内容を上から順に目で追った。
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