第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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【依頼内容:口寄せ】 霊媒師の指名:有り・大倉弥生、岡村英海 希望日時:最短日 連絡先:無し(訪問前及び施術前連絡不要) 依頼者名:持丸平蔵様(備考欄必読) 料金説明:済み ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「弥生さんだけじゃなくて僕も指名なの? 依頼者は持丸……平蔵……さん? どこかで聞いた名前だな……って、この人、先代じゃない? なんで先代が口寄せの依頼をするの?」 頭にハテナマークが浮かぶ。 今、先代と僕の可愛いスィートハニーこと大福は、一緒に黄泉の国にいる。 先代は、生前レジェンド級の霊媒師であった瀬山彰司(せやま しょうじ)さんに会いに、大福は”株式会社おくりび”の専属猫又として申請登録の事務手続きに、かれこれもう数週間が経つ。 まだ還ってこない先代が、なぜに口寄せの依頼をするのだろう。 あ、もしかして、還る為の口寄せか? 逝きは社長の思業式神のみなさんに連れて行ってもらったけど、還りのお迎えヨロシク的な。 「社長、弥生さん、これお迎え依頼ですよねぇ。弥生さんに口寄せしてもらって、僕にも勉強させてくれる感じですかね? ありがたいなぁ」 やっと還ってきてくれる、とニマニマしながら話しかけるも、社長は「(ちげ)えよ」と言ってるし、弥生さんの表情は硬いままだし。 とりあえず続きを読んでみる事にする。 備考欄必読ともあったし。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【備考:必読要す】 当日に持丸様の立ち合いはありません。 依頼者の持丸様は代理依頼となります。 本来の依頼者は、黄泉の国在住のマジョリカ・ビアンコ様。 呼び出し対象死者もマジョリカ・ビアンコ様となります。 今回は死者であるマジョリカ・ビアンコ様ご本人が、現世への召喚をご希望されています。 術者には必ず大倉弥生氏をと強いご希望です。 岡村英海氏がサポートに入る事は持丸様の指示となります。 また、料金につきましてはマジョリカ・ビアンコ様に支払い能力が無い為、持丸様の遺産からのお支払いとなり…… ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「弥生さん……このマジョリカ・ビアンコ様って……」 机の上に座る弥生さんに掛ける声が大きくなってしまった。 だってこれってさ、 「ああ、マジョリカだろうな。アタシから呼び出そうと思ってたけど、それはなくなった。かわりに向こうからコンタクトを取ってきた。アイツと……なにかあったのかも」 親指を軽く噛み、考え込む弥生さん。 その横から社長がこう言った。 「少し前にな、ジジィから連絡があったんだよ。んで、」 『黄泉の国ですごく親切で優しくて美しいお嬢さんと知り合ってねぇ。色々話をしていたら、どうもウチの会社と縁があるみたいなの。それでね、ぜひ弥生ちゃんに会いたいんだって。まぁともかく、女の子同士、会っても仲良くね。岡村君は弥生ちゃんとマジョリカちゃんが喧嘩しないように見張っててあげて』 「って、言ってたんだけどよ。弥生、そのマジョリカって女と知り合いか?」 弥生さん以上に細かい事は気にしない社長は、お気楽な質問を投げかける。 知り合いっつーか……ねぇ。 「ま、知り合いみたいなモンだ。誠、この依頼受けるよ。エイミーちゃんとツーマンセルでな。長期休暇は現場が終わってからにする」 跳ねるように机から降りた弥生さんは、「エイミーちゃん、ミーティングしよっか」と、三階の研修室へと向かっていった。
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