第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ ミーティング終了後、社長の指示で会社を早く出た僕と弥生さんは、仮眠を取る為にそれぞれのアパートに帰った。 僕はすぐにシャワーを浴びて、睡眠時間をより多く確保するべく、簡単に食事を済ませる。 そして目覚ましのアラームをセットしてベッドの中に潜り込んだ。 ジャッキーさんからの電話はまだ来ない。 時刻は夕方の16時。 枕元にスマホを置いて、いつ電話が来てもいいようにしておいたのだが、着信音が鳴る事はなく、アラームで目を覚ました僕は、弥生さんのアパートに向かった。 【あと五分で着くよ】 アパートに向かい歩きながら、短文メッセージを送るとすぐに既読がついた。 そして可愛らしいウサギの返信スタンプが表示された。 【りょうかいぴょん/(・x・)\♪】 弥生さん……ウサギ好きだよな。 元々ウサギが好きなのか。 それともジャッキーさんからウサギの縫いぐるみをもらって好きになったのか。 なんとなく後者なような気がする。 ____スーツじゃなくていいから、動きやすい恰好で来てな、 そう言われた僕は、ジーンズにシャツにパーカーという、本当にラフな感じで来てしまったのだが、良かったのだろうか? ま、多少間違っていても、ツーマンセルのリーダーは弥生さんなのだ。 それで怒られる事はないだろう。 さて着いた。 さっそくインターホンを鳴らす。 「おつかれ! 迎えに来てくれてアリガト。すぐに出られるからあと五分だけ待ってて」 と玄関の中に入れてもらった。 ……ん? なんかここ最近の弥生さんと雰囲気が違う。 なんていうのか綺麗で大人っぽい(ってもう充分大人ですが)。 ……ん? んー、あ。 「弥生さん、化粧落としたの? 顔が違う」 違うと言っても劣化したとかではなく、メイク後の可愛い→メイクオフの綺麗になったのだけど、僕の言い方は弥生さんを焦らしてしまったようで、 「え! もしかして老けたとか言いたい?」 あばばばばと焦る弥生さんに、違うんだと説明する。 「ああ……良かったぁ。いやさ、これからマジョリカと会うじゃんか。ジャッキーやクソ水渦(みうず)の話を総合すると、すごい美人らしいし、しかも永遠の17才だから若いだろうし。なのにさぁ……アタシが特メイ班のメイクとかしちゃったら、張り合ってます! でも負けてます! って感じしない? だったらメイク落としちゃおうと思って……」 ふぅん、女性はイロイロ考えるのね。 本当に五分後(女性はそう言いつつ支度が長いかと思ってたのに早っ!)。 いつもの黒いワンピースに、最近は巻かないストレートの髪を垂らしたままの弥生さんが、リュックを背負い、尚且つ大きな紙袋を片手に玄関までやってきた。 「なんだか荷物が多いね。僕、スマホと財布しか持ってきてない」 弥生さんから何も言われてないから、特別に用意はしていない。 もしかして……霊媒師たるもの、暗黙の了解で装備するアイテムがあったのだろうか……? 「ああ、この紙袋はお弁当とオヤツと飲み物だよ。何時までかかるか分からないし、霊力(ちから)を使えばカロリーめちゃくちゃ消費するだろ? 途中で何か食べないとフラフラになっちゃう。エイミーちゃんの分もあるから、お腹すいたら勝手に開けて食べてね、つか、絶対食べろ」 わざわざ作ってくれたんだ。 仮眠時間が減ってしまうというのに…… 「弥生さん、ごめんね。僕、ぜんぜん気が回らなくて何も用意してない。……神奈川の現場でもジャッキーさん、僕と水渦(みうず)さんの為に、オヤツとカップ麺用意してくれてたのに」 なんだか気のきかない自分が恥ずかしくて声が小さくなってしまう。 「やだ、ごめん! そんなの気にするな! アタシはさ、仮眠とろうとしたんだけど眠れなかったんだよ。今夜マジョリカに会うと思ったら緊張しちゃってさ。アタシだって毎回用意する訳じゃない。たまたまだ」 背中をバシバシ叩かれ、「さ、行くか」とドアを開ける弥生さん。 その手から「僕が持つよ」と大きな紙袋を奪い取る。 ズシッと重い袋の中には複雑な思いと優しさが詰まっている気がした。
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