第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ PM23:04 深夜近い寂れた公園は幽霊が出そうで怖い……と、霊媒師らしからぬ感想は心の中に留めるも、本当に気味が悪い。 塗装が剥げてけば立った遊具各種に、ささくれ立ったベンチがポツンとあり、かつては可愛かったであろう、パンダやカバを模したオブジェがもう、顔がドロドロに溶けていて、今にも襲ってきそうな雰囲気だ。 ただ広い。 広さだけはある。 ここで五年前、一カ月間休む事なく、弥生さんとジャッキーさんは戦闘訓練を繰り返していたという。 弥生さんにとって、懐かしい思い出の場所なのだろうなぁ。 「なぁ、エイミーちゃん。……あーアレだ、その、ホラ……ジャッキーから電話あった?」 モジモジしながらジャッキーさんから電話があったか聞いてくるこの人は、まさに恋する乙女そのもので、それが可愛らしくもあり、二度と逢う事は叶わないのかと思うと淋しくもなる。 「いや、ないねぇ。現場が大変なのかなぁ。出来ればマジョリカさんと会う前に、話せれば良かったんだけど。もう一回かけてみよっか?」 言いながらパーカーの内ポケットに手を伸ばす僕を弥生さんが止めた。 「ん……いいよ。かかってこないのは忙しいからだろうし、何度もかけたら迷惑だ。口寄せ予定時間まで一時間切ってるし、直でマジョリカに聞くのが一番早いよ」 出た、単純思考。 でもキライじゃない。 そうだよな、色々考えても仕方がない。 「分かった。大丈夫、もし喧嘩になったら僕が止めるから」 「いや、止めなくていいよ。そういう時は思いっきり喧嘩した方が良いんだ」 「うわぁ……それって”拳と拳で分かり合う”な感じ? 前に社長が同じ事言ってた」 「オイ、(アレ)と一緒にするな。つーかさー、あのクソハゲ、あんなに可愛い子を嫁に貰って大丈夫かぁ? 人生の運、全て使い果たした感じだよ。ありゃたぶん近いうち死ぬな」 社長の寿命を勝手に予想して、うむうむと一人で納得している。 まぁねぇ、確かにあんなに可愛くて性格の良いユリちゃんをお嫁さんに出来るって、相当に運を消費してるよ。 これからの人生、道を歩けば九割の高確率でウ〇チを踏む事になるだろう。 そういや、社長もジャッキーさんも筋骨隆々系だよなぁ。 今はそういう男性がモテるんだろうか。 僕も筋トレしたらモテモテになっちゃったりして……ないか。 「エイミーちゃん、お弁当ココに置いておくから、途中で勝手に食べてな。本当に遠慮はいらない。残っても無駄になるだけだ。アタシも後で食べるし」 そう言って、ささくれたベンチに紙袋を置いた。 その時、弥生さんは今にも崩れそうなベンチを愛おしそうに眺め、そっと手で撫ぜていた。 もしかしたら……五年前の訓練で、ジャッキーさんはこのベンチに座り、フィギュアを遠隔操作していたのではないだろうか? 弥生さんは、手のひらに水膨れを作りながら、ジャッキーさん操るフィギュアと戦い、大好きな術者を盗み見ていたんだ。
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