第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

101/222
前へ
/2550ページ
次へ
PM23:33 「さて、そろそろ口寄せを始めるか」 うーん、と大きく伸びをした弥生さんが言った。 予定では深夜0時のはずだよね? もう始めるの? 「ああ、ちょっと早いけど良いだろ。余裕を持って来たのは、もし公園(ココ)に人がいたら、穏便に追い出さなくちゃいけないからで、今は誰もいない。この後、人払いの結界を張って誰も近づけないようにしたら……始めよう」 言いながらゴソゴソとリュックの中に手を入れる弥生さん。 なにかアイテムを取り出すみたいだ。 「てか、人払いの結界ってなに?」 「ああ、会社もさ、誠が結界張って死者が社内に入れないようにしてるだろ? アレの生者バージョンだ。ウチラの仕事中に一般の生者が来たら色々マズイもん。大騒ぎになるのも避けたいトコだけど、下手すりゃ怪我人がでる。トラブルの元だ。だから一定の距離、生者が近づけないようにするんだよ。それを可能にするのが……コレだ。うわぁ……ゾワゾワする」 封印シールの張られた小箱をつまむように取り出した弥生さんは、顔をしかめてそれを持つ。 「中にナニが入ってるの?」 「半紙で切り抜いた人形(ヒトガタ)だ。これを公園の外周、囲むように刺しておくんだ。そうすれば生者は近づいてこない」 短い爪先で封印シールを破り蓋を開けると……全長目測10cm程の人形(ヒトガタ)に切り取られた真っ黒な半紙が数十枚入っていた。 「うわ……なんだか嫌な気だなぁ。不安になるというか、嫌悪感が湧くというか、とにかく近づきたくない」 思わず顔をしかめてしまう。 ものすごく嫌な感じで、傍にあるだけで陰鬱な気分になる。 「なー。ヤダよな、アタシもコレ好きじゃない。けど結界としては優秀だ。元は白い半紙なんだけどな、人の負の感情をたっぷり吸い込んで真っ黒になってる。このイヤーな感じが生者を近寄らせないようにするんだ。なんとなくコッチに行きたくないってのを強烈に感じさせるの」 「……てことは、元は誰かの中にあった感情? こんなに濁ったというか、どす黒い感情が……うへぇ、この感情って一人のもの? それとも複数?」 「コレは一人のだ。常にある憎しみ、妬み、嫉み、怒りとかとかが、滴る程沁み込んでる」 「結界張るには助かるけど、この感情の持ち主さん、大丈夫かなぁ。こんなんで毎日辛くないのかなぁ……」 怒りや負のエネルギーって、その人自身も消耗させるものねぇ。 「さぁな。今度、本人に聞いてみりゃいいじゃんか」 「本人? 誰それ」 「こんなにヘビーな感情持ってるヤツと言ったらクソ水渦(みうず)しかいないだろ。アイツ、出社するたび半紙に負の感情吐き出して保管してるんだ。で、こういう時に使えるようストックしてる。ま、アイツの性格の悪さが役に立ってる訳だ」 「……マジか」 僕はもうなんと言っていいものか……分からなくなっていた。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加