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PM23:33
「さて、そろそろ口寄せを始めるか」
うーん、と大きく伸びをした弥生さんが言った。
予定では深夜0時のはずだよね?
もう始めるの?
「ああ、ちょっと早いけど良いだろ。余裕を持って来たのは、もし公園に人がいたら、穏便に追い出さなくちゃいけないからで、今は誰もいない。この後、人払いの結界を張って誰も近づけないようにしたら……始めよう」
言いながらゴソゴソとリュックの中に手を入れる弥生さん。
なにかアイテムを取り出すみたいだ。
「てか、人払いの結界ってなに?」
「ああ、会社もさ、誠が結界張って死者が社内に入れないようにしてるだろ? アレの生者バージョンだ。ウチラの仕事中に一般の生者が来たら色々マズイもん。大騒ぎになるのも避けたいトコだけど、下手すりゃ怪我人がでる。トラブルの元だ。だから一定の距離、生者が近づけないようにするんだよ。それを可能にするのが……コレだ。うわぁ……ゾワゾワする」
封印シールの張られた小箱をつまむように取り出した弥生さんは、顔をしかめてそれを持つ。
「中にナニが入ってるの?」
「半紙で切り抜いた人形だ。これを公園の外周、囲むように刺しておくんだ。そうすれば生者は近づいてこない」
短い爪先で封印シールを破り蓋を開けると……全長目測10cm程の人形に切り取られた真っ黒な半紙が数十枚入っていた。
「うわ……なんだか嫌な気だなぁ。不安になるというか、嫌悪感が湧くというか、とにかく近づきたくない」
思わず顔をしかめてしまう。
ものすごく嫌な感じで、傍にあるだけで陰鬱な気分になる。
「なー。ヤダよな、アタシもコレ好きじゃない。けど結界としては優秀だ。元は白い半紙なんだけどな、人の負の感情をたっぷり吸い込んで真っ黒になってる。このイヤーな感じが生者を近寄らせないようにするんだ。なんとなくコッチに行きたくないってのを強烈に感じさせるの」
「……てことは、元は誰かの中にあった感情? こんなに濁ったというか、どす黒い感情が……うへぇ、この感情って一人のもの? それとも複数?」
「コレは一人のだ。常にある憎しみ、妬み、嫉み、怒りとかとかが、滴る程沁み込んでる」
「結界張るには助かるけど、この感情の持ち主さん、大丈夫かなぁ。こんなんで毎日辛くないのかなぁ……」
怒りや負のエネルギーって、その人自身も消耗させるものねぇ。
「さぁな。今度、本人に聞いてみりゃいいじゃんか」
「本人? 誰それ」
「こんなにヘビーな感情持ってるヤツと言ったらクソ水渦しかいないだろ。アイツ、出社するたび半紙に負の感情吐き出して保管してるんだ。で、こういう時に使えるようストックしてる。ま、アイツの性格の悪さが役に立ってる訳だ」
「……マジか」
僕はもうなんと言っていいものか……分からなくなっていた。
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