第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ 公園の真ん中で。 弥生さんは両手を広げ天に向けて伸ばしていた。 肘は不揃いに曲げられて、力は入っていない。 たとえるなら……高い場所に登って降りられなくなった猫を、怯えさせないように助ける時のような、両手を伸ばしてコッチに来てくれるのを待つ時のような、チョイチョイっと猫が前足を出してきたら、そっと身体を掴んで優しく降ろしてあげる時のような、そんな時に似ていた。 実際、弥生さんの顔は優しく微笑んでいた。 小さな声で何かを呟いている。 耳を澄まして聞いてみれば、 「ヤヨちゃん、ヤヨちゃん、ここにおいで。弥生と遊ぼう、弥生のお願い聞いて」 と言っている。 ヤヨちゃんってどんな子なんだろう? しばらくそうしていると、空から花びらに似た光る何かが降ってきた。 はらりはらりと紫色に発光しがら、あれは……なんだ? 「ヤヨちゃん、出ておいで。弥生の中から出ておいで」 両手を広げてまるで誰かを抱きとめるように、そのままの格好で「おいでおいで」と繰り返してる。 空から降る光る花びらは……よく見ると何かの形になってるようだった。 シルエットはそれぞれバラバラ、クルクル回転してハッキリとは視えないが……アレは……どこかで見たような…… 花びらとは別に。 弥生さんの頭上高く、じわぁっと丸い光がどこからともなく現れた。 色は藤の花色、薄紫の優しい色合い。 徐々に大きくなっていき、あっという間に大人が丸まって眠れるクッションくらいになっていた。 公園内はくすんだ外灯がいくつかあるけど、そんなに光は強くない。 薄紫の光はじんわりと辺りを照らしていた。 「ん、来てくれた。おいで、抱っこしよ」 まるで幼い子供に話しかけるお母さんのような優しい口調。 弥生さんが「抱っこしよ」と言ったすぐ後、藤の花色の光がハリハリと割れ、その中から長い髪の女の子が宙をふわりと舞いながら、広げた弥生さんの腕の中に降りてきた。 五才前後……と言ったところか。 弥生さんに抱っこされて甘える女の子は、黒いワンピースに長い黒髪、顔は……ああ、弥生さんにそっくりだ。 きっと幼少期はあんなあどけない顔をしていたのではないだろうか。 服も髪もお揃いで、まるで弥生さんの縮小版のような女の子だ。 抱き合う二人の頭上には、発光の花びらがはらりはらりと雪のように降ってくる。 あれ……? これって…… 「ヤヨちゃん、ひさしぶりだねぇ、元気だった? ああもう、そんなにいっぺんに話したら目で追えないよ。ゆっくり喋って? ん?」 あの女の子がヤヨちゃんなんだ。 弥生さんはヤヨちゃんのおでこに、自分のおでこをこつんとぶつけ、「もっとゆっくり」と言っている。 けど、さっきからヤヨちゃんは黙ってて、言葉を発していない。 どういうコト……?
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