第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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弥生さんは困った顔で「呼んできてよぉ」とお願いしているが、小さな女の子はプイプイ顔を背けヤダと言っている。 ふふ、あの頬っぺ。 ぷくーっと膨らんで、なんだか和んじゃう。 とはいえヤヨちゃんが口寄せしてくれない事には話が始まらない。 仕方がない、僕の出番だな。 「ヤヨちゃん、大丈夫だよ。もしも弥生さんとマジョリカさんが喧嘩しそうになったら僕が止めるよ。先代からもそう頼まれているんだ」 身を屈め、ヤヨちゃんの目線に近付けて「安心して!」と言ってみる。 【エイミ けんかとめる? んーんーんー んーんーんー わかった それなら ヨンデくル】 「ホントかー! ヤヨちゃんアリガトー! 気を付けて逝ってきてね。慌てなくていいから。途中でなにかあったらすぐ戻って来ていいからね」 まるで本当にお母さんだな。 弥生さんはヤヨちゃんを抱き上げてギュゥっとしてから手を放す。 するとそのまま宙に浮かんだヤヨちゃんは、 【やよい ジャッキ だいすき ヤヨイも スキだったのに】 「ん……ごめんな。もうジャッキーには逢えないんだ。淋しいか? ん……ごめん。あっ! でもホラ! エイミーちゃんがいるよ! これからはエイミーちゃんに遊んでもらえばいいよ!」 えぇ!? まぁ、全然良いんだけど、なんか取って付けた感が否めない。 【えいみ エンブ できる?】 「エンブ? ……あ、ジャッキーフィギュアがしてたヤツ、演武の事か。ご、ごめん……出来ない」 途端、しょぼーんと口をへの字にするヤヨちゃんだったが、五才児(推定年齢)が演武好きって渋くない? お人形とかじゃないの? 【てんてんてん とりあえず まじょりか よんでくる】 エンブ、エンブと文字を降らせつつ出発の用意をするヤヨちゃん。 そ、そんなに好きなんだ。 「あ……なんかゴメン。今度ジャッキーさんに習ってくるから、」 僕がそう言うと、めちゃくちゃ嬉しそうに笑い、ちっちゃな手をフリフリさせながら……風に吹かれた砂のようにサラサラと崩れて消えてしまった。 「いやぁ、ヘソ曲げないで逝ってくれて良かったぁ。けっこうヤヨちゃんは頑固なんだよね。でも可愛いだろ? って……あ、なんか恥ずかしい事言っちゃったな。顔、アタシと同じなのに」 えへへと照れながら笑う弥生さんには聞きたい事がたくさんある。 「ねぇ、ヤヨちゃんって弥生さんのお子さん? 顔があまりにもそっくりだ。血の繋がりを感じざるを得ない」 「いや、違うよ。さっき言ったろ? ヤヨちゃんはアタシの守護だ。あの子は沢山の死者が集まって、アタシの霊力(ちから)で繋がって、ヤヨちゃんに生まれ変わったんだ。子供じゃあないよ。見た目と仕草だけ視るとただの女の子なんだけどな」 弥生さんはしゃがみこみ、ヤヨちゃんが残していったコトバの欠片を指先で触りながらそう言った。 「沢山の死者が集まって出来たって……?」 「うん。じゃあ、そんな話でもしながらヤヨちゃんとマジョリカを待つか。黄泉の国まで往復するようだし少し時間がかかるんだ。そうだ、ちょっとお弁当でもつまみながら、どうだ?」 あ、ぜひ。 お弁当と聞いたらお腹が空いてきた。 僕達はささくれたベンチに座り、深夜のピクニックが始まった。
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