第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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これには詰んだよ。 家にも学校にも居場所がない、誰もアタシを相手にしない。 ボッチのガッコってマジ地獄。 さすがに登校するのが辛かったわ。 その頃あたりからさ、アタシのまわりに全身真っ黒な人の形をしたナニかがウロつくようになったんだ。 近付かれると鳥肌が立つ。 こっちに来るなと凄んでみても、三日月みたいなデカイ口は、馬鹿にしたように笑うだけで消えてくれない。 しまいには家の中、部屋の中までやって来て、寝てるアタシを何十人の黒い人形(ひとがた)が覗き込むんだ。 もう全然眠れないの。 そんなのが一カ月続いてさ、アタシ一人ではどうにも出来ないって追い詰まって、助けてほしくて父親に相談したんだ。 でも継母と揃って「気を引くための嘘をつくな」と叱るだけで相手にもしてもらえなかった。 いやぁ、悩んだね。 どうして他の人には視えないのだろう? どうして自分にしか視えないのだろう? 視えないから信じてもらえない。 誰かに言っても嘘つき扱いされるだけ。 ま、そもそも相談出来る相手がいなかったけど。 中学の頃のヤンキー仲間はさ、あれだけつるんでいたのに、高校行ったらパタっと連絡が来なくなったんだ。 学校分かれちゃったし、そんなものかと思ったけど、ある日偶然街で見かけて、その時、聞こえちゃってさ。 昔の仲間は知らない制服を着崩して、ケラケラ楽しそうに笑ってた。 嬉しくなって声を掛けようと近づいたけど……”弥生はヤバイ、喧嘩になると見境無くなる。一緒にいても怖かった。縁切りしてヨカッタよ” ちょうど、アタシの悪口言ってたんだよね。 こんなん聞いちゃったら、そーっと気付かれないように去るしかないでしょ。 高校で友達いなくて休み時間も昼食もひとりぼっち。 家族には嘘つき呼ばわりされて、慢性的な睡眠不足で身体も精神もボロボロ。 外に出ても家にいても、黒い人形(ひとがた)はどこもまでも付きまとう。 ノイローゼになりそうだったよ。 付きまとう人形(ひとがた)は十、二十の数じゃないし。 囲まれれば360度真っ黒で、視界は奪われ外に出る事もままならないし。 それでも出かけなくちゃならない時はハラハラだよ。 だって車や人が視えなくなっちゃうんだもん。 何度も事故に遭いそうになったわ。 ストレスで血の混ざる胃液を吐いた。 吐いて吐いて吐きまくって、胃液も出なくなった頃、アタシは限界を迎えた。 ____アタシに味方はいない、 ____アタシを守るのはアタシしかいない、 ____誰にも頼らない、みんな敵だ、 ____アタシが弱いからいけないんだ、 ____もっと強くなる、 ____黒い奴らは潰してやる、 ____アイツら全員殺してやる……! って。
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